かくもいろいろな生い立ち、生きざまがあるものだ。「飲食の戦士たち」と銘打たれたウェブコラム。そこに名を連ねる900人以上の飲食業経営者のサクセスストーリーは、まさに千差万別だ。

「多くの社長インタビューは『今』を中心に、今後どうすればいいかを聞くものばかりだが、僕らはまったく逆。なぜ社長になったかの『過去』を聞くので、記事自体が何十年たっても変わらない。古い記事の扱いにならないから積み重なっていった」と語るのは、配信元「キイストン」の細見昇市氏。実は自身も「代表取締役」という立場だ。

 元は経営する求人広告代理業を成功させるべく「社長インタビュー記事」を、営業の“突破口”にしたのがキッカケ。そこで「社長の考え」を聞くうちにその「生きざま」にもハマっていったのが、長期連載につながっていった。これで多くの経営者との人脈が広がり、本業も拡大した。

 彼らの生い立ちに「順風満帆」はゼロだ。細見氏の取材で“壮絶人生トップ3”を挙げてもらうと…。

 ①「株式会社ジャックポットプランニング」代表取締役・中川洋氏…16歳で家出し、キャバレーのドアボーイに。17歳でマグロ漁船にも乗船。のちに本格的に飲食の道へ入り、現在は首都圏に23店舗を展開。

 ②「株式会社ユサワフードシステム」代表取締役社長・湯澤剛氏…大手ビール会社就職も、他界した父の飲食店と借入金40億円を“継ぐ”ことに。その後、大手チェーンとの差別化を図るべく、魚のセリに直接参加できる「買参権」を取得するなど少しずつ軌道に乗せ、約18年で返済。

 ③「株式会社フロムフォティ」オーナーシェフ・石塚和生氏…私生児として生まれ「7回家族が変わった」幼少期を過ごした後、家出。半年ほどベンチや電車で過ごすホームレスに。その後、イタリアンの道に入り「ラーメンの鬼」佐野実氏との出会いを機にラーメンとの融合を発案。ミシュランのビブグルマン(コストパフォーマンスのよい良質な店)に選出されるまでに。

 こうした経営者たちを取材するうちに「成功者の三か条」が見えてきたという。

「まず『自分なりのこだわりがある』。例えば、あるもつ焼きチェーン店は創業当初、女性客やカップルを一切入れなかった。そこには店主の経験で『おじさんのたまり場になると息が長い』という、彼なりのこだわりがあったから。それが男性中高年層をガッチリつかみ軌道に乗せた。今や開店前に行列ができるほどの人気です」

「人が好き」も条件だ。「伸びる飲食店の経営者は“おせっかい”が多い。食べ物が好きな人は1店舗の名店を作れるけど、ワイワイ飲食するのが好きな人は店を展開できて大きくなってますね」

 最後は「『辞めようかな』から、どこまで諦めずに頑張れるか」。その向こう側に、運気が変わる“タイミング”が待っているという。

「踏ん張った期間の長さは、経営者によってさまざま。取材した中で最長は『10年』でした。ハンバーガー屋のFCに加盟するも、自身の月収は15万円ほど。でも希望を捨てず10年が経過したある日、客として訪れたのが、FC1号店のオーナーを探していた、今や超有名な焼き肉チェーン店の創業者だった…。そういうタイミングがめぐってくるわけです」

 7月からはZ世代にも響くよう「キイストン」取締役の武田あかね氏が、こうした生きざまを10分程度で再現ドラマ化することを発案。ユーチューブに上げている。モデル業を兼務する武田氏のコネクションを活用し企画、キャスティング。プロジェクトを組んで制作を進めている。

 もうすぐ連載1000回。“資料”としての価値も高く「飲食版『徹子の部屋』を目指したい」(細見氏)という。