本紙OBで芥川賞作家・高橋三千綱さん(享年73)が肝硬変と食道がんのため死去してから、17日で1年。長女・高橋奈里さんが父との壮絶な4か月をつづった「父の最期を看取った日々」が先日、青志社から出版された。介護、終末医療など家族が直面するさまざまな問題に向き合った4か月を振り返りながら、奈里さんが父への思いを語った。

 父・三千綱さんを思い起こさせる凛々しい顔立ちの奈里さんは、本を書こうと思ったきっかけについてこう明かす。

「父は死ぬ直前まで腹水をとった時の生々しい写真など、自身の症状をフェイスブックで友人に赤裸々につづっていました。その方たちに、父が亡くなった時の状況と私から見た父の様子を投稿した時に、自分の書いた文章でも人の心に刺さるんだなという思いが芽生えて、ちょうどそのタイミングで出版してみてはとお声がけをいただき、書いてみようと思いました」

 三千綱さんから病状について報告を受けたメールに深刻な状況であることを察知した奈里さんは、ロサンゼルスから娘を連れて帰国を決断。母とともに壮絶な介護生活が始まった。

「もう改善の見込みはなく、死を待つ状況でも父は生きたいという気力がかなり強く、気持ちが盛り上がっていると食欲が戻ったり、体を動かしたり、医師も驚くほど奇跡のようなことが起こりました。それはうれしい半面、この生活がいつまで続くのか…。拠点がロサンゼルスで娘が小学校に入る年でもあって、ずっと日本にいるわけにもいかない状況で、娘の将来と父の介護どちらも選択することができず…」

 先の見えない不安な日々に、さらに終末医療という厳しい現実にも直面する。

「医師に『お父さまは治る見込みがないので病院にいることはできません。明日、退院してください』と言われ、新しい主治医も決まっていない中、急に在宅で世話をする準備をしなければならなくなり…。介護ベッドも間に合っていないし、父の部屋は2階だったので、連れて行くのも大変。介護認定を受ける手続きなど全てが手探りでした。幸い、いとこがケアマネジャーだったので、相談しながらできたのは良かったですが、母一人ではとても無理だったと思います」

 そのような状況でも三千綱さんは生きることを最後まで諦めなかった。「『もうあなた死にますよ』と面と向かって何度も言われれば、普通ならどんどん落ち込んで、気力が病気に負けてしまいますが、父の場合は、まだ書きたいという執着が強かったと思います」

 奈里さんはこの本を通して「ちょうど私の年代は親が病気になりやすかったり、すでに介護が始まったりして親との時間が限られてくる。その中で、家族としてどういう形で最期を迎えるのか考えるきっかけになってもらえれば」と話す。

 文章を書くことに苦手意識があったという奈里さんだが、この本を出版したことで今後も書くことは続けたいと意欲を見せた。