映画「バケモノの子」がヒット中の細田守監督。その歴代の助監督を務めた「ソードアート・オンライン」の伊藤智彦監督(「時をかける少女」「サマーウォーズ」助監督)、「ノラガミ」のタムラコーターロー監督(「おおかみこどもの雨と雪」助監督)、そして「バケモノの子」の助監督・青木弘安氏の3人による鼎談。後編では細田監督のマニアックな好みが次々暴露されていく。(WEB担当・徳重辰典)

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■百秋坊と多々良にまさかの裏設定?

――「バケモノの子」ですが分かりやすさの半面、アニメファンからは尖ってないと言われることもあります

伊藤:それは細田守がもうちょっと尖がったところに行ってほしかった人たちが、マイルドになってしまったとちょっとした悲しみを込めて言っているんでしょう。

タムラ:尖ったところを捨てているわけではないんですが、より多くの人たちに間口を広げた作品を作りたいというものがあるから、どんどん見やすいように置きかえっていっている。

青木:百秋坊と多々良がお茶を飲むシーンがあるんですけど、最初は同じデザインの色違いのマグカップだったんです。細田さんが「これ色が違うとホモホモしいよね」と直しを出してました。色の違いは性的役割を示していると。でも、傘の色も違うんで「これ直しますか?」と聞いたら「ま、これくらいは餌まくくらいでいい」と。「多々良と百秋坊というのはあり得る」と言ってました(笑い)。

伊藤:ええっ。そこは全然想像していなかった(笑い)。今回だったらセリフの「毛も生えてないのに」だったり下ネタ的なものは毎回ある。時かけの時は「ちゃんとオナってきたのかよ」でサマーウォーズでは「もうやっちゃったの?」。入れたいんだなー、と思って見てました。

タムラ:そういえば、おおかみこどもの時は「登場人物がゲロを吐く映画は名作である」って言っていたなあ。雪も雨も吐くし。今回も九太が卵ごはんを食べるところで吐く。

伊藤:あとエロじゃないけど、今回は代々木体育館の隣で、ヒロインの楓の横に九太が座って、すごく長回しでパンダウンするシーンがあって。足を見るんだろうかと、ドキドキした。すごく不思議で。一番気になったシーンだったなあ。

タムラ:たしかに。細田さんにしては珍しく縦パン(縦のパーン)しているのもあって。やっぱり伊藤さんも気になりましたか。楓ではなく、九太の主観のようなアングルだからなおさら。

――細田さんがふとももフェチというわけではないんですか

伊藤:そうではないですね。むしろ少年のうなじがと言ってます。

タムラ:どっちかというとそうですよね。サマーウォーズでもカズマのうなじありましたね。

伊藤:「うなじを描いているとゾクゾクっとするよね」と言われて、この人何言ってんだと(笑い)。

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■細田監督のこだわりは少年のエロさ?

タムラ:少年のエロさに関しては一家言あるんですね。

伊藤:女の子に対するセクシャルなものは他の監督がやっているから、そこは違うところを俺はやろうという考えなのかな、と思います。

青木:直球の女の子のエロさにはあんまりいかないですよね。

タムラ:例えばアニメの場合、成人マンガ的な表現としてパンツのしわに影を入れたりはするんだけど、細田さんは影なしの表現を貫いてますから、エロスとしてやれることは絵のディティールを増やすことではなく、シチュエーションによるエロス。見え方、雰囲気による雰囲気エロスなんですよね。そこは技術的にすごいなと感心します。ファミリー層向けに作っているじゃないですか。でもそこにフェティシズムだったり色気であったりを差し挟んでいる細田さんだからこそ幅広いお客さんを呼んでいるのかもしれない。

――なるほど。細田さんの優れている点ところってどこでしょう

タムラ:細田さんは一緒に仕事する相手、スタッフに自分の考えをわかってもらう、自分のやってほしいことをやってもらう空気を作るのがうまい。おおかみこどもってエンタメとしては地味に見えかねないテーマだと思うんですけど、映画として作るにはお金出す人たちを説得しなければいけない。その雰囲気づくりがうまいというか、ほかのアニメ監督にはなかなかない才能ですね。

青木:話を聞く前のコンセプトだけを読んだ状態と、話を聞いた後の受け手側のテンションがぜんぜん違います。監督の話を聞くと途端にものすごく面白いものに感じる。

タムラ:自分はこう思ったとみんなに分かってもらうことができる。熱量があるんですよね。空気を読ませるのがうまい。普段から自分を演出しているということなんですかね。

青木:見た目とかもあると思いますね。歩き方とかたたずまいとか。黒い服ばっかりだったり。

伊藤:黒い服はただ汚れが目立たないようにするためじゃないかな(笑い)。歩き方は東映の山内監督(山内重保氏、細田氏の師匠にあたる)のずんずんと効果音つけたくなる歩き方そっくりで、山内監督見たとき「あれ細田さんこの歩き方を真似ているのかな」と思ったくらい。

――ほかはどうでしょう。俺の知る細田守はこんなところがスゴイという点

青木:例え話や参考に出てくる言葉がおしゃれ。「これ、表参道のディオールのあの感じ」と言ったり。アニメ業界の人はディオールとかなかなか行かないじゃないですか。行ってないと分からない。ほかにも「イサムノグチのモダンな家具を置きたいんだ」とか。ディティールの知識は、普通の人がぱっと出てこない。

タムラ:デザインに関しては知識を幅広く抑えていますよね。アニメ業界の人ってアニメに関するオタク文化に詳しい人は多いんですけど、細田さんは他の文化にちゃんと興味があるタイプ。

伊藤:建築だけでなく現代芸術、古典芸術でも。出身が芸大(金沢美術工芸大学)なのでよく知っていて、僕もまねしたいと思うがなかなかできない。「ルドンの絵みたいな感じ」っていわれてもすぐにはわからなかった。でもちろんアニメの知識もありますよ。「ここのエフェクトは劇場版ガンダムのアムロのバイザーに映り込む感じで」とか言うし。

青木:熊徹も実はガンダムカラーです。「主役はガンダムカラーが流行る」と言われて。

タムラ:かつて藤子・F・不二雄さんも「子供には丸いものがなじむ」とおっしゃってたようですし、僕の知り合いのイラストレーターさんも「白いものは普遍」と話していたことがありました。だから登場するチコが白くて丸い物に行き着いたのはすごく分かる。10年、20年の長いスパンで作品を見てもらいたいと意識していて、後から見て古びないためにはどうするかを意識しているからだと思います。

青木:山下さんもチコはありそうでなかったので、逆にすごく新しいとおっしゃって描いてらっしゃいましたね。

――逆に細田さんの困ったところはありますか

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伊藤:機嫌の上下が激しいとことか。きょうはピリピリしているなというのが背中を見ても分かる。

青木:コンテ中にどうしても話さなきゃいけないときとかは大変ですよね。ピリピリしてはいるけど作業者に怒ることはないです。僕も余計なことを言わないようにしていますし(笑い)。

伊藤:あとは美味しいもの食わせろとかですかね。あの人は基本グルメで東映時代のプロデューサーがよほど美味しいものを買い与えていたんでしょう。「このワインがうまいんだよ」とか「ここはあれを頼みましょうか齋藤さん」とか。すると齋藤プロデューサーが怪訝な顔になったり(笑い)。

タムラ:あはは。どれだけ高いものを頼んでるんでしょう。

伊藤:時かけの何かの作業が終わったときに角川の渡邊プロデューサーと、齋藤プロデューサーと僕と細田さんとでめしを食いに連れて行ってもらおうとなった時に「イタリアンのクラッティーニ(注:銀座の名店)に行きましょう」と言い始めて。店では「ここは春キャベツのパスタがうまいんだ」「伊藤もこのくらいの店は覚えておかなきゃだめだぞ」と言われ「はい」と返事はしたが、よく考えると別にあんたの金で食べているわけではないと(笑い)。

タムラ:一度言ってみたいセリフですね。何でもいいものを知っていると引き出しが増えますし。

伊藤:良い点というと作品への執着力がとてつもなくある。時かけのときはラストシーンが終わった後も悩んでいたのを覚えています。一度絵コンテを書いても1・5verを出したり。プロデューサーが疑問を持ったところを言うと「いやいや違うんだよ」と言いながらもちょっとだけ直してたりして。時かけでいうと最後の「千昭が真琴に言うセリフって何かな」とコンテ終わった後もずっと考えている。

タムラ:おおかみのときもコンテを何バージョンも出してました。細田さんは感受性が高いので相手の空気を読んで、プロデューサーが引っかかっているんじゃないかなと思ったら直す。そこが作品の分かりやすいにつながっている。受け手との価値観の違いはあれど、観た人に内容が伝わる作品は以外と難しいんですよ。時たま訳が分からない作品がもてはやされたりしますけど、狙って作っているのではなく本当に訳が分からないものしか作れない人が多かったりしますから。細田さんはそれができているし、宮崎駿さんも分かりやすいですからね。分かりやすい作品を作るのは演出家として難易度が高い。訳の分からない作品が結果的にうけることはあるけど、毎回うけるわけではないですから。

――細田監督でいえばポスト宮崎駿といわれることがよくあります。どう思われますか

伊藤:どちらかというと宮崎さんよりも高畑勲さんタイプだと思いますね。宮崎さんは空想家というかロジックは後からついてくるタイプ。

タムラ:細田さんは確かにロジカル。おおかみのときに「映画の頭5分は技術で見る」と言っていて。冒頭って誰もキャラクターに感情移入できないんですよ。どんな作品世界かも分からない。なので、そこは最新技術などに注目してしまうのだと。今回も冒頭はバケモノをかたどった炎が動く技術で見せている。

――伊藤さんが助監督を務めた時かけの時とはかけられる予算も大きくなっていますが。細田さんの作品作りは変わっていますか

伊藤:割と変わっていないんじゃないですかね。戦争映画や時代劇を撮りたいわけではなく、そこまで遠い世界を描いているわけではないのが大きい。テーマもわりと現代に近く、今作りたいものを一番考えている。だから今見るべき映画につながってくると思う。

――人が多く関わる大作映画だけに売り上げやスタッフの生活など多くのプレッシャーはかかります。細田さんは大丈夫なタイプでしょうか

伊藤:うーん…プレッシャーでしょうね。でなかったら作品作っている最中に円形脱毛症にならないと思います。ただスタジオ地図を作ったときに、それを選択したと僕は受けとめています。

――最後に3人に質問です。ずばり細田さんと生まれ変わっても働きたいですか?

伊藤:死ぬ間際に言われたらやります(笑い)。いや、本当にやりますよ。是非!

タムラ:やってみたいですけどね。

青き:パラレルワールドで声がかかったらまたやりますよ。

――本日はありがとうございました。

☆いとう・ともひこ=1978年10月20日生まれ。2010年「世紀末オカルト学院」で監督デビュー。2012年には人気作「ソード・アート・オンライン」の監督を務める。現在はKADOKAWA「ヤングエース」連載中「僕だけがいない街」(原作:三部けい)のアニメ化を準備中で16年1月よりフジテレビ「ノイタミナ」ほかにて放送予定。

☆たむら・こーたろー=1980年9月26日生まれ。2014年「ノラガミ」で監督デビュー。現在は今秋放送のテレビアニメ「ノラガミ ARAGOTO」を準備中。

☆あおき・ひろやす=1985年4月6日生まれ。日本大学芸術学部卒業後、マッドハウスを経て、現在フリー。今回が細田監督作品初参加となる。