大相撲の横綱日馬富士(33=伊勢ヶ浜)が10月の秋巡業中に鳥取県内で幕内貴ノ岩(27=貴乃花)に暴行を加えた問題が、新たな展開を迎えた。九州場所5日目の16日、騒動が起きた酒席に同席していた横綱白鵬(32=宮城野)が報道陣に当時の状況を説明する異例の行動に出たのだ。しかし関係者によって情報が食い違う点もあり、かえって謎は深まるばかり…。その一方で日本相撲協会は、一度は徹底調査の方針を打ち出したものの、当面は警察に真相究明を“丸投げ”する構えだ。

 白鵬は朝稽古後に「私はその場にいたわけですし、相撲界、世間に本当に申し訳ない思いでいっぱいです。土俵の上でいい相撲を取って頑張っていくしかない」と謝罪。暴行発生時の状況について「報道されているような、ビール瓶では殴ってはおりません。持ったけど(手から)滑り落ちました。すぐに止めに入って(日馬富士を)部屋から連れ出した」と説明。

 日馬富士が馬乗りになった事実も否定したが、素手で殴ったことは認めた。さらに5日目の取組後に再び騒動について言及し「報道されていることと実際はズレがあった。その場で貴ノ岩も(酒席で日馬富士を怒らせたことを)謝って帰りました。次の日も(巡業先で2人は)握手を交わして(貴ノ岩は)普通に取組をしていた」と話し、両者はすでに和解しており決着済みであることを強調。「警察でも(話すことは)同じです」と言い切った。

 前日15日には部屋宿舎に取材や見学を断る張り紙がされるなどピリピリムードを漂わせていたが、この日は自ら積極的に情報を発信。大横綱が一夜にして心変わりした理由は何なのか。「日馬富士がクビにならないように“助け舟”を出したのでは」(角界関係者)との見方もあるが、真意は定かではない。

 しかも「ビール瓶で暴行した」と話す同席者もおり、証言が食い違う形となっている。証言が一致しないのは「ビール瓶」や「馬乗り」だけではない。現場にあったとされる「アイスピック」をめぐる情報についても「日馬富士が持っていた」とする者もいれば「貴ノ岩のほうが持っていた」と話す関係者もいる。仮に“被害者”の貴ノ岩が鋭利なアイスピックを手にしていたとすれば状況は一変することになるが…角界内でも全く正反対の情報が錯綜している。謎は深まるばかりだ。

 渦中の日馬富士にも動きがあった。前日は日帰りで一時帰京したのに続いて、この日は夜に福岡・太宰府市の部屋宿舎を出発。車で北九州空港へ向かい、再び空路で帰京した。午後11時ごろ羽田空港に到着すると、警察官にガードされ、待ち構えた約100人の報道陣にモミクチャにされながら黒い車に乗り込んだ。その後はなぜか約1時間半もかけて都内を周回し、宿泊施設に入っていった。

 この日の帰京は鳥取県警による任意の事情聴取を17日に東京都内で受けるためとみられる。前日の“謎”のとんぼ返りもその準備だったのか。

 日本相撲協会の広報部長の春日野親方(55=元関脇栃乃和歌)は「警察が乗り出したからには、私たちが出しゃばって警察より先に(調査をする)というわけにはいかない」と当面は警察の動きを静観する構え。白鵬の証言については「警察にお任せしている。(白鵬は)警察の前で言うべき。今ごろのタイミングで言ってもね」とクギを刺した。

 相撲協会は今回の問題発覚を受けて危機管理委員会を招集。事実関係を調査する方針を打ち出したものの、九州場所開催中であることを理由に調査の開始を先送りにしていた。その矢先、警察が動きだしたことで当面は真相究明を“丸投げ”することになった。警察の捜査によって、いったいどんな真実が明らかになるのか。先行きはまるで見えない状況だ。

【鳥取警察に提出の診断書には骨折の記載なし】

 貴ノ岩側が10月29日に鳥取県警に被害届とともに提出した診断書に、骨折が含まれていなかったと17日の朝日新聞が報じた。九州場所休場のため、日本相撲協会に提出した9日付の診断書には「脳振とう、左前頭部裂傷、右外耳道炎、右中頭蓋底骨折、髄液漏の疑い」で全治2週間と記されている。しかし、報道によれば県警に提出した最初の診断書はこれより軽く、骨折の記載がなかったという。

 最初の診断後、巡業にも参加していた貴ノ岩だが、5日から5日間、福岡市内の病院に入院している。診断書の“矛盾”は、再度診断した結果、新たに骨折などが判明したのか、急激に症状が悪化したのか…。いずれにしろ、新たな謎を生んだことだけは確かなようだ。