東京五輪の組織委から出てきた「延期」論の是非 専門家は一刀両断

2020年03月12日 16時40分

組織委の森会長は今回も延期論を一刀両断にしたが…(ロイター)

 ただならぬ雰囲気になってきた。新型コロナウイルス感染拡大を受け、東京五輪(7月24日開幕)の開催是非を巡り様々な意見が出る中、ついに五輪の運営・準備を行う“本隊”の大会組織委員会内部から「延期」が提案されたのだ。いまや世論でも「中止」「延期」の声が大きくなってきたが、これに真っ向から反対する見解もある。本紙はスポーツビジネスとウイルス学の双方の見地から延期や中止の現実性を検証しつつ、“反主流”となった「開催派」の主張を紹介する。

 つい数か月前まで一笑に付されていた東京五輪の「中止」「延期」の話題が“中核”から飛び出たのだから、もはや笑い事では済まされない。電通元専務で大会組織委員会の理事を務める高橋治之氏(75)は米メディアなどで「大会中止はない」とした上で、2年延期が現実的との考えを示したのだ。今月末の組織委理事会で延期案を提起する考えの高橋氏に対し、組織委の森喜朗会長(82)は「安全で安心な五輪を進めるのが我々の基本的スタンス。方向や計画を変えることは全く考えていない」と強調。高橋氏に注意を促し「ご迷惑を掛けた」と陳謝されたとも話した。

 4年に一度、それも自国開催のビッグイベントだけに世論も熱を帯びる。現状は「通常開催」「無観客」「延期」「中止」と4案あるが、目下のところ「延期」の声が高まってきた。そんな中、日本スポーツマネジメント学会会長で早大スポーツ科学学術院の原田宗彦教授(65)はあくまで「通常開催」の立場を取る。

「考え方として倫理的、経済的、公衆衛生的など様々な切り口があるけど、やはり経済的に見て3兆円がぶっ飛ぶのはきつい。チケット代の赤字もすごい額になる」とまずは「中止」「無観客」を否定。その上で前述の「延期」を「現実的ではない」と一刀両断する。

「世界中のイベントスケジュールにきしみが生じ、都市計画も狂う。延期の間に生じる経費は莫大です。例えば、有明アリーナは五輪終了後にSPC(特定目的会社)がコンセッション方式で東京都にお金を入れることになっている。こういうことが全ての施設で起こるんです。いったい、このお金を誰が払うのか」

 選手村の跡地もマンションになり、すでに入居者は契約済み。その補償金もバカにならない。さらに原田氏は「選手は人生を懸けて五輪にピークを持っていく。ここで引退を決めている選手はたまらないですよ」とアスリートの立場からも延期案に疑義を唱える。

 ではベストな選択は何か?「正しく(ウイルスを)恐れて五輪を開催すること。やはり見えない敵と闘うのだから慎重すぎるくらいがいい。アルコール消毒、マスク着用を徹底して観戦し、選手はハグやハイタッチをしない」。今の政府の方針に賛成という原田氏は「この2週間が勝負。とにかくこれ以上感染を広げない。終息に向かった現実を世界に伝え、日本は世界で一番安全だと示せればいい」と語った。

 希望的観測とはいえ、開催への信念を持つ同氏は「経済って心理学みたいなものでムードが大事。今は集団パニックの状態で、公衆衛生の危機から経済の危機に変わっている」と指摘。「私はウイルスの専門家じゃないから軽々には言えませんが、ある時点で必ず終息するもの。ゴールに向かって信念を曲げずに準備を進めてほしい」と主張した。

 ではウイルス感染の専門家はどう見ているか。広島大学大学院ウイルス学専門の坂口剛正教授(59)は「コロナは飛沫感染でインフルエンザに似ている。瞬間的にうつす力はインフルより弱いけど、感染させる期間はコロナのほうが長い。トータルでは1人の感染者から平均2人にうつすインフルと一緒くらい」。約4か月後の開幕へ向けて「未知のウイルスなので不安でしょうが、希望的に見て私は暑い時期になればある程度は収まると思います」と展望する。

 坂口氏によれば、屋内より屋外のほうが安全で、湿度の高い水泳施設は感染リスクが低い可能性があるという。それを踏まえて「競技や会場によって無観客にしたり、そういう組み合わせで開催できるかもしれない」と語る。だが、世界保健機関(WHO)による「終息宣言」の条件は「潜伏期の2倍の期間、一人も発症しないこと」と言い、今夏までには「完全にゼロは現実的に無理」と分析している。

 そのWHOは事務局長の記者会見(11日)で、新型コロナウイルス感染症について「パンデミック(世界的大流行)だ」と宣言。果たして世界中が注目する結末はどうなるのだろうか。