【直撃!エモPeople】ミニチュアバイオリンにとりつかれた奇特なバイオリニストがいた。長さ8インチ(約21センチ)のおもちゃのようなバイオリンを器用に演奏し、注目を集めているのが堤麻衣子さん(40)だ。普通のバイオリンの音色に比べると「ネズミの悲鳴」に聞こえるとも最初は言われたが、音程が一定ではないところも含めて魅力だという。演奏を始めて10年、レパートリーはクラシックからJポップまで1000曲。世界中が注目する音楽家ユーチューバーに話を聞いた。

 声楽家、バイオリニストとして地元福岡市を中心に活動してきた堤さんが、ミニチュアバイオリンと出会ったのは約10年前。ミニチュア弦楽器の製作で知られる白石秀樹氏との出会いだった。

 長さ8インチ、重さ30グラム。おもちゃのようだが、本物のバイオリンを完全縮小したものだ。音も奏でられる。その奏者を探していた白石氏と出会い、演奏をスタートした。

 オーダーメードの作品で価格は本体のみで22万円~。演奏会やSNSなどで音色を披露すると、その小ささに驚かれ、テレビ番組にも風変わりな演奏家として出演した。

 一方、演奏家仲間からは「音色がそんなには良くない」、ユーチューブの視聴者からは「ハムスターの悲鳴みたい」「窓ガラスを爪で引っかいた音のようだ」との声も上がった。それでも、堤さんは「普通のバイオリンと比べると、音程が一定ではないところを含めて魅力がある。4弦のうち、ほとんどを高音の2弦しか使わない演奏法や、調弦ではその日の気温や湿度に合わせて繊細にやらないといけないことなど、特殊な技術が必要ですが、いとおしい」と語る。

 その演奏技術は世界中の奏者から絶賛され、レパートリーはクラシックからJポップまで1000曲を超えた。世界的に見てもここまでミニチュアに没頭するバイオリニストはいない。普通のバイオリンの歴史は長いが、ミニチュアとなると、教則本もないため、製作者の白石氏とともに世界的な専門家ともいえる。

「弦を張る力加減などのベストな数値の計測や、気温マイナス8度で演奏できるかなどの実験もしています」(堤さん)

 白石氏の高い製作技術は世界でも注目され、デンマークのサーカスのピエロ、アルネ・ビョークさんらが使用している。

「アルネさんとは『コロナ禍が明けたら一緒にパフォーマンスしよう』という話をしています。アルネさんは演奏はしないので、私もピエロに扮して、音色を奏でたりできたらいいなと。世界中でミニチュアバイオリンにハマる人がいっぱいになるのが夢ですね」

 堤さんは3歳からバイオリンを始め、8歳から欧州各地を演奏旅行するなど、英才教育を受けてきた。高校時代にプロとして活動を開始し、スイスでデビューコンサートを開催。大学では「身体も楽器」と声楽科へ進学。2009年には様々な楽器の演奏家が所属する事務所を設立し、社長として奮闘している。

「仕事が安定するまでは路上ライブや、飲食店に飛び込みで入って演奏する流しのバイオリン弾き、大道芸人とユニットを組んだり、ちんどん屋をしたり、ストリップ劇場のステージで前説で演奏させてもらったり、何でもやりましたね」

 コロナ禍では、事務所所属の演奏家と開催していた月1回の定期コンサートをはじめ、月15本はあった演奏依頼、週1回の保育園の音楽講師、生徒へのレッスンなどの仕事が一時ゼロになった。

「持続化給付金や文化活動への助成などをもらっても収入はコロナ前の5割ほど。車を売ったりして活動資金を補てんしました。事務所所属の演奏家も収入はコロナ前の4~7割ですね」

 暗くなりがちな自粛期間だが、いいことも。

「ユーチューバーとしての活動を始め、多くの人の目に触れるようになって『かわいいバイオリン』『癒やされる』『赤ちゃんの歌声みたい』という声をいただくようになりました。リモートで演奏する仲間が増えたことや、練習場の公的施設も使えないので、仲間と海岸や公園に出て練習したり、自然と調和できたのもこの期間ならでは。精神的にもよかったと思うようにしてます」

 今では、堤さんのミニチュアバイオリンの音色の受け止められ方はかつての「ネズミの悲鳴」から「小鳥の鳴き声」へ好意的になり、オリジナル曲「小鳥のさえずり」を制作、発表した。その活動は世界に広がりそうだ。

 ☆つつみ・まいこ 1980年11月5日生まれ。福岡県福岡市出身。3歳で手にしたバイオリンで、8歳から欧州で演奏旅行を開始。県立修猷館高時代にプロデビュー。武蔵野音大声楽科、福岡教育大大学院演奏学修了。音楽教室経営を経て、2009年、演奏家をまとめる音楽事務所「クオリア・プロダクション」を設立。12年に白石秀樹氏製作の8インチのミニチュアバイオリンと出会い、世界的にも珍しいミニチュアバイオリニストとして活動を続けている。