【音楽タイムマシン】

 世界最強のロックバンド、ザ・ローリング・ストーンズが約3年ぶりのニューアルバム「フォーリン・タングス」を10日にリリースした。実に25枚目のオリジナル・アルバムとなる今作は「イン・ザ・スターズ」「ジェラス・ラヴァー」など痛快なナンバーが揃った傑作となった。そこで今回はストーンズ黄金期である1970年代の名盤5選をお届けします。

【イッツ・オンリー・ロックン・ロール(1974年)】

ザ・ローリング・ストーンズ「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」
ザ・ローリング・ストーンズ「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」

 ジャマイカで録音された「山羊の頭のスープ」(73年)に続くアルバムだが、原点であるロックンロールに回帰した内容になっている。しかし当時はキースのドラッグ問題でバンドの状態は最悪で、このアルバムを最後にミック・テイラーが脱退するなど、バンドは大きな転換期を迎えていた。思うにミックは「ストーンズがストーンズらしい曲を演奏する」というジレンマを抱えていたのではないか。そのため内容的には、壁をブチ破った感が強い。

 それでも優れた楽曲が並ぶ。A面1曲目のエッジがきいたロックンロール「イフ・ユー・キャント・ロック・ミー」から、テンプテーションズ66年のヒット曲のカバー「エイント・トゥー・プラウド・トゥ・ベッグ」もスピードを上げてグイグイ迫ってくる。そして当時のバンドの象徴的な曲となった「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」と冒頭からのスピード感には圧倒される。A面最後はテイラーの見事なギターソロと、チャーリーのリムショットとスネアが印象的な泣かせるナンバー「タイム・ウェイツ・フォー・ノー・ワン」で幕を閉じる。

 B面はレゲエの要素を取り入れた「快楽の奴隷」、スピード感に満ちた「ダンス・リトル・シスター」と続き、問題作である「フィンガープリント・ファイル」で不気味に終わる。同曲は当時全盛を極めたファンクサウンドを取り入れつつ「ウォーターゲート事件」を題材にしている。緊張感に満ちた「真っ黒い音」はもはや完璧なファンクナンバーであり、この曲でストーンズは新たな道を模索していたのではないか。その冒険は次作「ブラック・アンド・ブルー」で結実することになる。全米1位、全英2位。

【スティッキー・フィンガーズ(1971年)】

ザ・ローリング・ストーンズ「スティッキー・フィンガーズ」
ザ・ローリング・ストーンズ「スティッキー・フィンガーズ」

 ストーンズ黄金期の幕開けである。71年に待望の自主レーベル「ローリング・ストーンズ・レーベル」を設立したバンドは、いきなり痛快かつ完璧なロックンロール・アルバムをリリースする。ビートルズが解散した翌年というのも感慨深い。

 ジーンズのジッパーを模した豪華な変型ジャケットも新たな意欲の表れだったのだろう。A面1曲目は全米1位を記録した「ブラウン・シュガー」。単純に言えばとにかく「カッコいい」という言葉に尽きる。リズムを刻むキースのアコギとテイラーの鋭いスライドギター。文句なしの名曲である。

 そして3曲目はストーンズのバラードの最高傑作「ワイルド・ホース」。カントリーロックの先鋭的存在だったグラム・パーソンズの影響を受けた作品とされる。老いていくことの不安と未来への希望。相反する思いを乗せた祈りにも似た歌詞を切々と歌うミックのボーカルは胸に突き刺さる。

 さらにキースのギターとボビー・キーズのサックスが絡んで、チャーリーが激しく変則的リズムを叩く「キャント・ユー・ヒア・ミー・ノッキング」(個人的には同作のナンバーワン)、得意のルーズなブルース・カバー「ユー・ガッタ・ムーヴ」、性急感に満ちた「ビッチ」、心地よいテンポのカントリーナンバー「デッド・フラワーズ」などキャッチーな曲が続き、幻想的な「ムーンライト・マイル」でアルバムは幕を閉じる。ストーンズ最強期の最高傑作と断言してもいいだろう。全米1位、全英1位。

【ブラック・アンド・ブルー(1976年)】

ザ・ローリング・ストーンズ「ブラック・アンド・ブルー」
ザ・ローリング・ストーンズ「ブラック・アンド・ブルー」

 本作からミック・テイラーに代わり、元フェイセズのロニー・ウッドがギタリストとして正式メンバーに加わった。最新メンバーの加入がちょうど50年前というのもすごい話だ…。当時の音楽シーンはディスコ一色の時代。ストーンズはルーツであるブラックミュージックへ再び回帰すると、バンドの歴史の中でも異彩を放つ名盤を作り上げた。

 A面1曲目「ホット・スタッフ」の重いビートは、圧巻のひと言に尽きる。ストーンズなりのディスコブームに対する回答でもあった。続くロックナンバー「ハンド・オブ・フェイト」、レゲエナンバー「チェリー・オー・ベイビー」など多彩なサウンドが続き、B面1曲目の「ヘイ・ネグリータ」では再度、ディープなソウルが鳴らされる。

 特筆すべきは定番のバラードが高い完成度を誇っていることだ。A面ラストの「メモリー・モーテル」はミックとキースのデュエットが秀逸。B面3曲目のミックの独白のような「愚か者の涙」との2曲はバンド史上にも残る屈指の名曲に仕上がった。

 しかしアルバムはスピードは緩めずラストのロックナンバー「クレイジー・ママ」まで一気に疾走する。ストーンズはこの後も「女たち」(78年)、「エモーショナル・レスキュー」(80年)など傑作アルバムで様々なアプローチと実験を試みつつ、楽曲として完成度の高い独自のファンクチューンを追求していく。全米1位、全英2位。

【メインストリートのならず者(1972年)】

ザ・ローリング・ストーンズ「メインストリートのならず者」
ザ・ローリング・ストーンズ「メインストリートのならず者」

 ストーンズにとって初の2枚組アルバム。バンドがルーツとする様々な音楽的要素が、これでもかとばかりに詰め込まれている。そのため発売当初は「まとまりに欠ける」などの批判もあった。しかしカントリー、スワンプ、ブルース、バラード、そしてロックンロール…ストーンズがあらゆるスタイルで自由奔放に鳴らす音は痛快そのものであり、結果的には黄金期を代表する傑作として認知されるようになった。

 A面はブラスを加えた痛快なロックンロール「ロックス・オフ」で幕を開け、パンクにも似た性急な「リップ・ディス・ジョイント」、緊張感漂うブルースナンバー「シェイク・ユア・ヒップス」、そして代表曲「ダイスをころがせ」(全米7位)で息をもつかせぬまま幕を閉じる。

 B面ではブルース色が強調され、ゆったりとした「スウィート・ヴァージニア」「黒いエンジェル」「ラヴィング・カップ」などが光る。C面はキースがボーカルを取る「ハッピー」で始まり、ホーンを導入した黒っぽい「ヴェンチレイター・ブルース」、ドラマチックな展開の名曲「レット・イット・ルース」で終わる。

 D面は痛快なロックナンバーで隠れた人気曲「オール・ダウン・ザ・ライン」から、得意の感動的なバラード「ライトを照らせ」、そしてルーズかつハードな「ソウル・サヴァイヴァー」でアルバムは終わる。全18曲、トータル67分17秒と2枚組にしては意外に短い。だが駄曲は1曲もなく、聴き終えた後は言いようのない興奮と充実感に満たされる。まさに黄金期を象徴する作品だ。全米1位、全英1位。

【女たち(1978年)】

ザ・ローリング・ストーンズ「女たち」
ザ・ローリング・ストーンズ「女たち」

 音楽シーンはパンク・ムーブメントからニュー・ウェーブ、ディスコ全盛へと大きく動いていた時代に、ストーンズが堂々と「王道」であることを証明したアルバム。ブラックミュージックを再検証しつつロックンロールの原点に戻ったバンドが、完全に息を吹き返した傑作である。

 A面は強烈なダンスビートを叩き出すストーンズ流の重いファンクナンバー「ミス・ユー」(全米1位)で幕を開け、スリリングな「ホエン・ジ・ウィップ・カムズ・ダウン」、バンドお気に入りのテンプテーションズ71年のヒット曲を現代風に解釈した「ジャスト・マイ・イマジネーション」、ストーンズらしいルーズな「サム・ガールズ」からパンクへの挑戦状のような性急な「ライズ」で締めくくられる。

 B面は60年代に回帰したような音的展開が素晴らしい。カントリーナンバー「ファー・アウェイ・アイズ」、キースらしく反体制を歌った「ビフォー・ゼイ・メイク・ミー・ラン」、70年代のストーンズの中でも切ないメロディーが秀逸な名曲「ビースト・オブ・バーデン」(全米8位)、そして再度性急にスピードを上げた「シャッタード」で幕を閉じる。

 とにかく楽曲のジャンルの豊富さとアルバムの表情の豊かさは、他の若いバンドには絶対まねのできないものであり、70年代でも屈指の名盤となった。同作でストーンズは再びロックシーンの頂点に返り咲き、80年代へと突入する。全米1位、全英2位。