【音楽タイムマシン】

 今回の「音楽タイムマシン」は、今から50年前の1975年にリリースされた日本のロック&ポップスの名盤を特集。この年は洋楽ロックも大豊作だったが、日本でも現在再評価されているJ―POPの名盤が多くリリースされた年だった。今でも音楽シーンに影響を与え続ける名盤、ヒット作5枚を厳選してお送りします(順不同)。

【荒井由実/COBALT HOUR】

 ユーミンのサードアルバムにして初期の最高傑作。とにかくこれでもかというぐらい名曲が続く。

 ハイ・ファイ・セットに提供した「卒業写真」のセルフカバー、「ルージュの伝言」「少しだけ片想い」「雨のステイション」など名曲かつ代表曲のオンパレードでジャパニーズポップスで1、2を争う名盤である。

 ユーミンのリリシズムに満ちた心象描写、風景描写が素晴らしい。特に「雨のステイション」では雨降る日の駅のホームと主人公の悲しい諦念…感情や情景が、目前に浮かぶように描かれる。

 バックのティン・パン・アレーの演奏も実に見事だ。ベースは細野晴臣。米ポップスへのオマージュである「ルージュの伝言」の躍動感や「アフリカへ行きたい」などのベースラインは見事。ユーミンはこの後も傑作を発表し続け、日本ポップス界の女王に君臨する。

【ティン・パン・アレー/キャラメル・ママ】

 1973年末にキャラメル・ママというグループ名で活動を開始し、74年にティン・パン・アレーに改名したスーパーグループ。グループと呼ぶよりは、当時の大物ミュージシャンのバックバンドを務めた職人集団という印象が強い。

ティン・パン・アレー/キャラメル・ママ
ティン・パン・アレー/キャラメル・ママ

 メンバーは当時のトップミュージシャンが名を連ねた。ベースは元はっぴいえんどの細野晴臣とギターは鈴木茂。ドラムスは林立夫、キーボードは松任谷正隆。まさにプロ中のプロ揃いで、4人の出す音は確実に1970年代中盤の日本のロック&ポップスシーンを変えてしまった。

 彼らがバックを務めたミュージシャンはユーミンこと荒井由実(後の松任谷)、吉田美奈子、鈴木慶一、矢野顕子、いしだあゆみなど大物ばかり。現在のJ―POP再評価ブームの中心となっているのも事実である。

 残したアルバムは2枚のみだが、ファーストは当時の最先端を走っていた音に満ちている。参加メンバーもユーミン、矢野、南佳孝、大貫妙子、山下達郎と豪華そのもの。鈴木の「ソバカスのある少女」、後の展開を感じさせる細野の「イエロー・マジック・カーニバル」など名曲揃い。時代を象徴する名盤である。

【大滝詠一/NIAGARA MOON】

大滝詠一/NIAGARA MOON
大滝詠一/NIAGARA MOON

 はっぴいえんど解散後、大滝は1975年にナイアガラレーベルを設立。同レーベルからの初ソロアルバムだ。その後、1981年の名盤「A LONG VACATION」までいわゆるノベルティー路線に入るも、多くの佳曲を世に出した。

 大滝が日本のミュージシャンに多大な影響を与えた功績は大きく、同作ではニューオーリンズのリズム&グルーヴ、セカンドラインのビートにも取り組んでいる。同時に日本の音楽界ではずばぬけた豊富な知識を駆使しつつ、多彩な楽曲が披露されている。

「福生ストラット(パートⅡ)」「ハンド・クラッピング・ルンバ」「恋はメレンゲ」「シャックリ・ママさん」などは“変化球”でありながらも高いクオリティーを誇る。大御所による米国ポップス&ロックのエッセンスが詰め込まれた名盤である。

【SONGS/シュガー・ベイブ】

SONGS/シュガー・ベイブ
SONGS/シュガー・ベイブ

 山下達郎のデビューアルバムにして、日本ロック史上で光を放つ名盤中の名盤だ。

 山下と大貫妙子が在籍。山下の「何が何でも新しい音楽を作る」という熱気はすさまじい。大貫がのびやかに歌う「蜃気楼の街」「風の世界」「いつも通り」などはいつの時代も色あせない。山下が希代のメロディーメーカーとしての才能を存分に発揮した「雨は手のひらにいっぱい」などは今聴いても胸を打つ。ラストの「SUGAR」まで全てが名曲揃いだ。

 75年はロックと歌謡曲がクロスオーバーし、ユーミンらニューミュージックが台頭してきた時代でもあったが、山下は他のバンドと一線を画すように、ヤング・ラスカルズやフィフス・アヴェニュー・バンドなどのエッセンスを吸収して名曲の数々を作り上げた。プロデュースは大瀧詠一と山下。冒頭の「SHOW」から「DOWN TOWN」は不朽の名作として今でも歌い継がれる、日本ロック&ポップスの原点である。

【小坂忠/HORO】

小坂忠/HORO
小坂忠/HORO

 細野晴臣とエイプリル・フールで活動していた小坂が作り上げた「和製リズム&ブルース」の名盤。日本人がソウルミュージックと真剣に取り組んだ大傑作である。

 共同プロデューサーは細野。バックにはティン・パン・アレー、キーボードに矢野顕子(当時・鈴木)、コーラスには山下達郎、大貫妙子という超豪華なメンバーが参加している。

 ぶっきらぼうながらも「ほうろう」「機関車」「ボン・ボヤージ波止場」「しらけちまうぜ」「流星都市」「ふうらい坊」などの名曲には不思議な諦観、静寂感、希望など人間の持つあらゆる感情、かつ独特の内面的エネルギーに満ちており、ソウルミュージックを見事に消化しつつ、独特の音世界を作り上げている。

 ここ数年でも高い再評価を受けており、アナログ盤も再発された。唯一無二の日本人によるソウルミュージックの傑作である。