【音楽タイムマシン】今からちょうど50年前の1976年、ロックは大きな転換期を迎えていた。パンクロック出現の衝撃、米国マーケットの肥大によるメガセールスアルバムの増加…。今回の「音楽タイムマシン」はそんな重要な転換期を迎えた76年のロック名盤5枚をお届けします。
【イーグルス/ホテル・カリフォルニア】
米国を代表するバンドのメガヒットアルバム。全世界で3200万枚を売り上げて当時、表題曲がラジオでかからない日はないほどだった。しかし「澄んだ青空と美しいビーチ」という従来のカリフォルニアのイメージはこの曲には存在しない。建国200年の年に崩壊へ向かう「夢のカリフォルニア」へのレクイエムが歌われている。
ドン・フェルダーのギターによる有名なイントロと間奏、ジョー・ウォルシュが加わったツインギターによるエンディング、そしてドン・ヘンリーのボーカルは「テイク・イット・イージー」とは別世界の諦観と終末感に満ちている。しかし曲が素晴らしいせいか、当時はその意味が深堀りされることもなく大ヒットを記録した。
とにかく名曲揃いである。続くグレン・フライが歌う「ニュー・キッド・イン・タウン」は一転して爽やかな風が吹き、ハードな「駆け足の人生」、メロウな「時は流れて」からB面へ向かう。そして崩壊から新たな一歩を踏み出そうという強い意思に満ちたヘンリーが歌う感動的な名曲「ラスト・リゾート」でアルバムは幕を閉じる。米国が閉塞感に満ちた時代だからこそ生まれ、現在にも通じる名盤だ。全米1位。
【レッド・ツェッペリン/プレゼンス】
世界最高峰のハードロックバンド、ツェッペリンの最高傑作。様々な音楽的実験を試みてきたツェッペリンが、7作目となる同作ではギター、ベース、ドラムの最小限の楽器だけで、ジョン・ボーナムの豪快かつ変則的なリズムパターン、ジミー・ペイジのギターリフを中心に、リスナーの目前に迫ってくるようなヘヴィネスを持った「音の塊」を完成させた。
ハイライトは1曲目の「アキレス最後の戦い」に尽きる。ボーナムはまるで生き急ぐかのように性急にキックドラムを叩き続け、小節をつなぐ部分では奇跡的かつ複雑なフィルインを披露している。そしてジミーのギターリフ。哲学的に深化したロバート・プラントの歌詞。ギリギリに張り詰めた緊張感と完成度はもはや超人的で、10分26秒という時間を全く感じさせない。最小限の音数でハードロックをダイナミズムに進化させ、今でもハードロック史上最強の名曲とされる。
続く「フォー・ユア・ライフ」「ロイヤル・オルレアン」と畳みかけるようにヘヴィなサウンドが続き、B面1曲では変則的リズムを強調した「俺の罪」で再度、高揚感を上げ、スローなブルースナンバー「一人でお茶を」でアルバムは幕を閉じる。わずか44分19秒が永遠に感じられる空前絶後の名盤だ。全米1位。
【ザ・ローリング・ストーンズ/ブラック・アンド・ブルー】
本作からミック・テイラーに代わってロン・ウッドが参加。音楽シーンはディスコ一色の時代で、ストーンズは独自の解釈により、ルーツであるブラックミュージックへの再アプローチを試みた結果、バンドの歴史の中でも異彩を放つ名盤を作り上げた。
1曲目「ホット・スタッフ」のビートは、当時流行していたディスコ音楽を簡単に蹴散らすほどのインパクトを持っていた。続くロックナンバー「ハンド・オブ・フェイト」、レゲエナンバー「チェリー・オー・ベイビー」など多彩なサウンドが続く。
定番のバラードも「メモリー・モーテル」「愚か者の涙」などでポイントをしっかり押さえつつ、ラストのロックナンバー「クレイジー・ママ」まで一気に疾走する。バンドはこの後も「女たち」(78年)、「エモーショナル・レスキュー」(80年)など傑作アルバムで様々なアプローチを試みつつ、独自のダンスサウンドを追求していく。全米1位。
【ボストン/幻想飛行】
76年はメガヒットアルバムが続出した年で、ボストンのデビューアルバムはいわゆる「産業ロック」の走りとされる。しかし商業的なにおいは感じられない。それほど曲と演奏が素晴らしいのだ。
フロントマンでマサチューセッツ工科大出身のギタリスト、トム・ショルツのワンマンバンド的要素が強く、トムがほとんど1人で音を作り上げているが、ロックアルバムとしてはダントツに優れたものだった。
ひときわ輝きを放つのは1曲目の「宇宙の彼方へ」(全米5位)。伸びやかなギターがフェードインしてくるイントロとメロディー、転調してからの激しいリフなど、ハードロックの教科書的な寸分のスキもない名曲である。
その他にも「ロング・タイム」「スモーキン」「ロックンロール・バンド」など独々のグルーヴ感を持った名曲が並ぶ。卓越したテクニックを誇るトムのギターが爆音で鳴らされるのは快感であった。世界中で1700万枚を売り上げてデビューアルバムでは「最も売れた一枚」となった。
バンドはその後も「ドント・ルック・バック」(78年)、「サード・ステージ」(86年)などの全米1位アルバムを発表。86年にはシングル「アマンダ」が全米1位を記録してスタジアム級のバンドになるが、衝撃性という点では本作には及ばなかった。それほどこのデビューアルバムは優れていたのだ。全米3位。
【デヴィッド・ボウイ/ステイション・トゥ・ステイション】
常に変化を繰り返してきた天才ボウイが米国ソウルに挑んだ「ヤング・アメリカンズ」(75年)から一転、ヨーロッパ的色彩へ戻ったマイルストーン的な作品だ。
ここまでは「ジギー・スターダスト」(72年)、「アラジン・セイン」(73年)などのキャラクターを演じてきたボウイは「シン・ホワイト・デューク」(痩せた青白き公爵)と名乗って同作品に取り組んだ。
いわゆる「プラスティック・ソウル」と呼ばれた前作とは180度方向を転換し、翌77年の名作「ロウ」から始まる「ベルリン3部作」への橋渡し的存在となった。強い電子音楽性と同時に、プログレ的な大作志向を感じさせる冒頭の表題曲は実に10分32秒。ドラマチックな展開は、ボウイが持つ妖気とダイナミズムが混在した名曲だ。続くヒット曲「ゴールデン・イヤーズ」や「ワード・オン・ア・ウイング」もソウルを経たボウイの魅力が発揮されている。
本作は初の主演映画「地球に落ちて来た男」(76年)公開後に制作されたが、この時期のボウイは大衆を扇動するカリスマ的なジギーとはまた違う、物静かで孤独な宇宙人を演じていたようにも見えた。
わずか全6曲だが表題曲から、B面ラストの「野生の息吹き」で訴えかけるように歌うボウイの切実な声は身震いするほどである。
この後、またもやボウイは変身を遂げ「ベルリン3部作」へと向かい、2016年に69歳で亡くなるまで常に変化を繰り返し続けた。全米3位。
【その他の76年名盤10枚】
★ボブ・ディラン/欲望
★ジョニ・ミッチェル/逃避行
★ポール・マッカートニー&ウイングス/スピード・オブ・サウンド
★ジェフ・ベック/ワイアード
★エアロスミス/ロックス
★ピーター・フランプトン/フランプトン・カムズ・アライヴ!
★ボズ・スキャッグス/シルク・ディグリーズ
★エレクトリック・ライト・オーケストラ/オーロラの救世主
★10cc/びっくり電話
★シン・リジィ/脱獄

















