大相撲の秀ノ山部屋が開設から1年を迎える。元大関琴奨菊の秀ノ山親方(41=本紙評論家)は新米の師匠として奮闘。集団生活ならではの苦労や多忙を極める部屋運営の現実に直面する一方で、手塩にかけて育ててきた10代中心の力士たちは着実に成長の跡を見せている。同親方による連載「がぶりトーク」では、試行錯誤を続けた1年目を総括した。

【秀ノ山親方・がぶりトーク】読者のみなさん、こんにちは! 昨年10月19日に秀ノ山部屋を開設してから、まもなく1年がたちます。振り返ると、本当にあっという間。大きなやりがいを感じる半面、相撲部屋ならではの苦労もある。1人が胃腸炎になると、他の全員も胃腸炎になったり(苦笑い)。集団生活は大変です。弟子の育成と、部屋の運営に費やす時間配分も当初の想像とは違っていました。

 円グラフで例えると、稽古で力士を指導することは全体の2割か3割ぐらい。残りの7、8割は部屋の仕事に追われています。お世話になっている方々へのあいさつ回りをしたり、部屋の行事の準備をしたり、新弟子のスカウトに行ったり…。本場所が終わると力士の稽古は1週間ほど休みになるけれど、私だけは休めない。現役時代の方が、今の数倍はラクでした(笑い)。

 もちろん、師匠としては弟子たちと向き合う時間を一番大切にしています。部屋の力士たちは、未成年の子ばかり。まずはあいさつや掃除といった基本的なことから覚えさせて、人としても成長させなければいけません。どんな言葉で伝えれば、弟子たちの心に響くのか。私自身、試行錯誤の繰り返しでした。

内川聖一氏(左)と秀ノ山親方(秀ノ山親方提供)
内川聖一氏(左)と秀ノ山親方(秀ノ山親方提供)

 相撲に関しては技術面より、土台となる体力づくりに重点を置いて取り組んできました。基礎運動を継続した結果、1年前には自分の体も支えられなかった子たちが少しずつ戦える体になってきた。9月の秋場所は三段目の誠雄が優勝争いしたのをはじめ、部屋全体でも25勝17敗と勝ち越すことができました。ただ、勝ち負けよりも大事にしているのは気持ちの部分です。

 自分の力を出し切って負けるのはいいけれど、弱気な相撲で負けるのは見過ごせない。最初から無理だと思ってしまったら、勝てるものも勝てなくなりますから。力士たちに口酸っぱく言ってきたことで、だんだん気持ちで負ける相撲が減ってきた。少しずつだけど、心身ともに成長しているなと感じています。

 各分野の専門家や他競技で活躍した方を部屋に招く試みも続けています。6月には、私が現役時代から交流がある元プロ野球選手の内川聖一さんに来ていただきました。相撲と同じで投手と打者も1対1の真剣勝負。心構えや緊張との向き合い方などについてのアドバイスは私自身も勉強になりました。今後も力士たちには相撲だけでなく、いろんな角度から刺激を与えて成長につなげていきたいと考えています。

 力士4人でスタートした弟子は6人となり、把瑠都(元大関)の紹介でエストニアから来たアナトーリも研修生として部屋の仲間に加わりました。部屋の2年目は今まで以上に愛情を持って弟子たちと向き合うとともに、相撲のやりがいや勝負の厳しさというものを教えていきたい。私自身も関取、そして横綱をつくる目標に向けて一歩ずつ頑張っていくつもりです。それではまた!