【ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ(1968年)】

 多くの名曲を残した作曲家でアレンジャーのロジャー・ニコルズが残したソフトロックの源流となる名盤中の名盤。日本では1990年代の「渋谷系」のバイブルとなった。ロジャーは後にカーペンターズの「雨の日と月曜日は」や「愛のプレリュード」などの作曲家として名声を得ているが、これが自身初めてのアルバムとなった。

 独特のバイオリンのピチカート奏法が印象的な「ドント・テイク・ユア・タイム」で幕を開けると、万華鏡のようなロジャーのポップス感覚に満ちた世界が幕を開ける。柔らかく優しい。だが聴いた後には胸から抜けない何かが突き刺さる感覚が残る。

 全12曲でカバーは6曲。ビートルズとラヴィン・スプーンフルが2曲ずつ、キャロル・キングらの曲が含まれている。オリジナルも素晴らしいが、カバー曲のアレンジがとにかく突出している。

 単にコピーではない。古い宝石に水彩の絵の具で青、赤、白…様々な色を塗り、光の具合によっては、どの方向から見ても違う色に見える水晶玉になったような“魔法”が施されているようだ。

 加えて聴いた側に「素通りはさせない」という鬼気迫るアレンジで、ストリングス、ホーン、ギターのフレーズなどの「フック」が細かく挿入されて独自の音世界を構築している。ビートルズ「アイル・ビー・バック」、キャロル・キング「スノウ・クイーン」などは原曲とは違う地平で名曲として成立しており、胸に突き刺さる。

 ロジャーはその後も名曲を作り続け、5月に84歳で逝去した。くしくも6月に亡くなったビーチ・ボーイズの巨匠ブライアン・ウィルソンの魂を継承したこのアルバムは永遠に輝き続ける。改めて合掌。