ボートレース徳山のGⅠ「徳山クラウン争奪戦 開設70周年記念競走」が2日に開幕する。今大会のスローガンは「時代を塗り替えろ!」。しかし、ボートレースファン歴45年の元天才ジョッキー田原成貴氏(64)はあえて世代交代の波に抗うベテランに着目した。徳山水面との出合いを振り返り、ノスタルジーに浸った奇才。自身の境遇とダブらせながら、古き良き時代を勝ち抜いてきた2人の古豪レーサーにエールを送った。

 ボートレース徳山。オレとは切っても切り離せない場所だ。中学生の時、祖父と先生に連れられて初めて行った。レース場に向かう車窓からは周南工業地帯に立ち並ぶ煙突が見え、何本もの白煙が青空に昇っていた。その光景は鮮明に目に焼き付き、オレの原風景となっている。以来、ボートレース徳山に行く道では言いようのないノスタルジックな気持ちになる。一瞬だけ少年時代に戻れるんだ。

 現役ジョッキー時代、賞金のほとんどをボートレースにつぎ込んでいた時に一番お世話になったのが松井繁選手、今垣光太郎選手だった。今垣さんが1997年の徳山クラウン争奪戦を優勝した時は、今のようにインターネット投票がなかった時代。新幹線で現地まで乗り込み、舟券に興じた記憶がある。そんな思い出も相まって、ボートに貼られた「松井」「今垣」のネームプレートを見ると、あの煙突を見た時のようなノスタルジーを感じる。

 気付けばオレも60代半ば。この年になって、つくづく若さがうらやましく感じる。以前なら当たり前のようにできたことが難しくなってきた。同じ気持ちを抱く同世代も多いのではないか。怖いもの知らずの20代、脂に乗り切った30代。そんな前途洋々な次世代の若者にオフィスで嫉妬するサラリーマンだっているだろう。もしかしたら、松井さんや今垣さんも同じ心境かもしれない――。今大会のドリームメンバーを見た時、ふとそう感じた。

 いまやボートレース界は石野貴之選手、毒島誠選手、峰竜太選手ら登録番号4000番台が席巻。3000番台の松井さん、今垣さんは現在も記念戦線で活躍しているが、徐々に隅に追いやられ、存在感が薄くなっていると心の中で感じているのではないか。だからこそ、オレたちの世代は彼らに思いを託したい。ボートレースは他の体力勝負のスポーツとは違い、熟練の技で若いヤツらをやっつけることができる。もちろんスピードあふれる若手のターンも魅力的だが、その一方で必死に最前線で戦っている松井さん、今垣さんが若手をギャフンと言わせるレースぶりを見たいという本音もある。そんなふうにベテラン勢と自分をダブらせて応援しているオールドファンも少なくないだろう。

 もっと言えば、松井さんや今垣さんもかつては逆の立場だった。野中和夫さん、中道善博さん、黒明良光さん…昭和の古豪たちに挑み、世代交代を成し遂げた張本人。昇竜のごとく勢いに任せていた当時はベテランの心境など全く頭になかったろうが、今になって「あの時の先輩たちも同じ気持ちだったのか」と思っているかもしれない。と同時に「まだまだ負けてたまるか」という意地と執念が彼らの原動力になっているに違いない。

 派手さはないがプロフェッショナルに徹した松井選手のいぶし銀の味、ガマンのレース。闘志あふれる今垣選手の気迫満点の絞りまくり。思い出が詰まった徳山水面でオレたちの世代に感動を与えてくれ! 若手に立ち向かう松井さん、今垣さんにオレも夢を懸けてみたい。