名古屋・栄を本拠地に活動するアイドルグループ「SKE48」に熱狂的なカープ女子が存在する。「広島の人にとってカープは家族なんです」と熱い口調で語るのは広島出身の藤本冬香(22)。アイドルになるため広島から名古屋に出てきた藤本にとって、故郷のチームの活躍が元気の源となっている。

 藤本は75人いるSKEのメンバーの中で唯一のカープ女子だ。開幕前に中京スポーツ(東京スポーツ中部版)に掲載されたSKEメンバー20人によるセ・リーグ順位予想でも藤本の1位はもちろん広島。他のメンバーが注目選手に中日ナインを挙げる中、たった1人だけ「鈴木誠也選手」と書いた。スポーツ専門動画配信サービスで広島の全試合をチェックし「鈴木誠也選手が三冠王になってカープが優勝します」と断言する筋金入りの鯉党だ。

 小学生のころからマツダスタジアムで応援していた。「広島の小学校にはカープの授業があるんです。教科書にもカープのことが載っています。(経営難に陥ったカープを救うため市民が行った)樽募金のことなどを学びました」。中学、高校でも友達との話題はカープのことばかり。大学生になってからパン工場、宅配便の仕分け、ビラ配りなどのアルバイトをしたがバイト代は広島戦のチケット代に消えた。

 忘れられない試合がある。2018年9月26日、広島がヤクルトを下しリーグ3連覇を成し遂げた瞬間を内野席から見ていた。スタンドで味わった歓喜と興奮。宙を舞う緒方監督の姿が涙でにじんで見えた。3か月後、SKE48の9期生オーディションに合格した藤本は故郷に別れを告げ、単身名古屋へ向かった。

 ずっと憧れていたアイドルの世界だが、現実は甘くない。同期が次々とSKE48劇場での公演デビューを果たす中、ダンス未経験の藤本にはなかなか出番が巡ってこなかった。「出れる(レベルの)子から出演していくという感じだったんですけどわたしは…。心が折れそうになりました」。慣れない土地でレッスン場と自宅を往復するだけの日々。それでもカープの試合を見ると元気が出た。「選手のみなさんが一生懸命プレーする姿を見ているとわたしも頑張ろうと思えるんです」。やっと呼ばれたステージ。熱い声援と拍手に涙がこぼれた。「アイドルになって、SKEに入って本当に良かった」。心の底からそう思った。

 それでも山あり谷ありだ。2月15日、静岡・エコパアリーナでのコンサート。最後に研究生から正規メンバーへの昇格発表が行われた。5000人のファンの前で同期の名前が次々と読み上げられていく。だが、最後まで藤本の名前が呼ばれることはなかった。そこから先は涙が止まらなかったことしか覚えていない。夢と現実の落差に意識を失った。気付いたときは救護室のベッドの上。「大丈夫だよ」。枕元には先輩・惣田紗莉渚からの励ましのメッセージが置いてあった。

「みんなに名前を知ってもらえるアイドルになりたい」。夢への道のりはまだまだ遠い。それでもくじけそうになったとき、いつも力を与えてくれるのはカープの選手たちだ。特に開幕から大活躍の堂林には勇気をもらった。「自主トレで堂林選手は(後輩の)鈴木誠也選手に弟子入りしたんです。先輩なのにプライドを捨てて自分が強くなるために振り切った。そういった姿勢をわたしも見習おうと思っています」

 SKEには後輩の10期生が入ってきた。早くもダンスが注目されているメンバーもいるが「10期生の子にもダンスを教えてもらいます。自分の成長につながることなら何でもするつもりです」と後輩への“弟子入り”も辞さない覚悟を決めている。「いつかマツダスタジアムで始球式をやりたい。球場で流れる『それ行けカープ』の著名カープファンリレー映像に参加させてもらえるようなアイドルになりたいです」。自分がカープの選手たちから元気をもらったようにファンの人たちに夢や希望を届けたい。そのためにもまだまだ名古屋で頑張るつもりだ。

☆ふじもと・ふゆか=1998年4月3日生まれ。身長158センチ。広島県出身。2018年12月にSKE48の第9期生オーディションに合格。宝物は鈴木誠也選手にサインを書いてもらったスマホケース。ニックネームは「ふゆっぴ」。