【ロバータ・フラック/ファースト・テイク(1969年)】
名ソウルシンガーのロバータ・フラックが2月24日に亡くなった。88歳だった。70年代には「やさしく歌って」「愛は面影の中に」「愛のためいき」などの全米1位ヒットを記録したが、最高傑作はやはりファーストアルバムである本作ではないだろうか。
ソウルでありながらジャズ的要素も強く、ロバータのボーカルはそれまでのソウルにはなかった静寂感に満ちており、深い悲しみと歓喜が背中合わせになったものだった。ロン・カーターら超一流のミュージシャンをバックに、ピアノを弾きながら歌うスタイルは、音数よりも盤全体を覆う静かで不思議な空間を表現していた。
レナード・コーエンの「さよならは言わないで」のカバーは、ロバータの突出した表現力が聴く者の胸を打つ。後にクリント・イーストウッドの「恐怖のメロディ」で使用され、72年に全米1位を記録した「愛は面影の中に」は、どんなソウルシンガーにも出せない慈愛の声が鳴り響く。
まるで底のない深い悲しみの湖から湧き出てきたような希望と絶望が同居する声を表現できる唯一無二のアーティストだった。「やさしく歌って」がCMソングに使われたため、日本にもファンは多かった。ディープなソウルファンからは「あれはポップス」という批判も聞こえたが、ロバータの声はジャンルなど簡単に超越してしまうほどの存在感に満ちていた。
後年には親交の深かったダニー・ハサウェイとデュエットアルバムをリリースしているが、こちらも名盤。「ファースト・テイク」独特の静寂観と音空間を味わうなら、ぜひアナログで聴いてほしい。セカンドの「チャプター・ツー」もファーストに匹敵する名盤である。 (敬称略)












