【昭和90年代の人々】「iPhone」や「ChatGPT」がもし昭和の時代にあったら、という設定で作られた、懐かしさあふれるアニメーションを見たことはあるだろうか。そんな〝再現動画〟を投稿したのは、アニメーション愛好家のかねひさ和哉氏だ。今回は作者のかねひさ氏に、動画を制作した経緯やこだわり、過去の文化への愛着について直撃した。
――「iPhone」や「ChatGPT」といった最新技術・コンテンツをテーマに、昭和をイメージした架空のCMアニメを制作されたことが話題を呼びました。このような動画を投稿された理由は?
かねひさ和哉氏(以下、かねひさ) 元々自分は昔のアニメーションの表現というか、古典的な表現がすごく好きだったんです。「見る側」「調べる側」としてその面白さを追いかけて行く中で、自分で再現したらどこまでできるんだろうという気持ちが湧き上がって、アニメを作るようになりました。題材に「iPhone」や「ChatGPT」を選んだのは、特に社会に対して何かを訴えたかったということではなくて。せっかく過去を再現するなら、現代の技術やサービスと掛け合わせた方が面白いんじゃないかな、という感覚的な所からスタートしました。
――動画では、いつ頃のアニメーションを再現されたのか?
かねひさ 「iPhone」の場合は昭和30年代後半のアニメーションをイメージして作っています。「ChatGPT」はもう少し後の昭和40年代を意識していますし、動画ごとに割と時代設定は変えていますね。
――反響の中でうれしかった反応・コメントは?
かねひさ 「iPhone」の動画では、商品名や特徴的なフレーズを繰り返し入れることで、当時のコマーシャルソングの再現を目指していました。それもあって「曲の中毒性がすごい」といったコメントをいただけた時は、狙いが適切に伝わったように感じられてかなりうれしかったですね。
――動画を視聴する方の年齢層
かねひさ データ上では、20代~30代前半の方が最大の視聴者層です。どの動画も、平成初期に多感な時期を過ごされた方が多く視聴されている印象ですね。
――その年代が、昭和をイメージできる最後の世代ということか?
かねひさ いえ、どちらかというと昭和を知らない初めての世代ということだと思います。小さいころにアニメの再放送を見たり、ユーチューブに流れてきた動画を見たりして、リアルタイムではないけれど昭和を新鮮に受け止めている、という方が多いのではないでしょうか。反対に昭和50、60年代に青春を過ごされているような方からすると、アニメーションで再現した年代からは微妙に離れた立ち位置になってしまうんですよね。
――昭和を経験するとかえって距離が生まれてしまうというのも興味深いですね
かねひさ やはり昭和の時代は60年続いているので、30年代と60年代では流れていたコマーシャルのスタイルが随分違うんです。昭和後期に育った方は、僕の動画を見た時に「自分の知ってる昭和じゃない」という違和感の方が強くなってしまうのではないでしょうか。
――過去と同じアニメ制作の環境や設備を揃えるのは難しい。どのようにアニメを作っていますか?
かねひさ 確かにかつてのような、セル(アニメの制作過程で使用された透明のシート)やフィルムでの撮影は個人規模で行えないので、ペンタブレットを使いながら〝フルデジタル〟で制作しています。ただ絵柄だけではなく、撮影処理の部分からも当時らしさは再現しようと工夫しています。
――具体的にはどのような工夫を?
かねひさ マニアックな話にはなってしまいますが、1970年代には鉛筆で紙に描いた絵を、特殊な機械を使ってセルに転写するという手法がよく取られていたんです。その際に技術的な問題で、絵の輪郭がとぎれとぎれになったり、濃淡が再現できずに線がガタガタしたりすることがあって。そういった特徴を専用のエフェクトを使って再現するようにしています。
――〝質感〟を再現されているということですね
かねひさ そうですね、フィルムのノイズ等も自分でその都度試行錯誤しながら表現しています。
――アニメーションに熱中し始めたのはいつから
かねひさ 物心がついた時から好きではありましたね。周りの子が年少・年中で「ポケットモンスター」や「ワンピース」に熱中していたころに、テレビの特番で取り上げられている「鉄腕アトム」や「ひょっこりひょうたん島」に興味が湧いていたので。4、5歳の頃から過去のコンテンツを意識していたのかなとは思っています。
――SNSではかねひささんが昭和初期を意識した服を着た写真も話題になった。アニメーションをきっかけに当時のファッションにも興味を持った?
かねひさ ええ、どの活動のベースにもアニメーションへの興味があるという感じですね。ファッションに関しては昔のアニメーションを見漁っていたら、その時代の実写にも興味が出てきたことがきっかけでして。小津安二郎や木下惠介の作品を見た時に、この時代の服装も面白いなと感じたんです。ですからアニメーション以外の趣味に関してはあくまでも二次的、三次的なものという意識がありますね。
――作品の音楽にもこだわっている
かねひさ 両親もクラシック音楽をやっていた人間なので、音楽については理解のある家庭で育ったとは思います。ただ僕が好きで作品にも使っているジャズや歌謡曲に関しては、特段家で流れていたわけではなくて。どちらかというと後天的に好きになったといいますか…。
――つまり、かねひささんの中では「昭和好き」というよりも、昭和の文化の中に〝刺さる〟ものが多かった?
かねひさ そうですね、たまたまある時代に生まれた表現・コンテンツが、自分の感性のアンテナに多く突き刺さったという方が正しいかもしれませんね。
――一方でかねひささんは最近のアニメのパロディー動画を投稿されたり、VTuberからの依頼で昭和風動画を提供されたりしています。昭和と同様に現代のコンテンツも楽しんでいる?
かねひさ それは間違いないです。確かに特定の年代に好きなものが集中している一方で、面白いと感じたものは現在も過去も関係なく、貪欲に取り入れたいと常に思っていますから。VTuberさんの件もお仕事として協力させていただきましたが、今後も依頼先が最新のサービスや商品だった場合は、そのコンテンツについてしっかり理解した上で動画を作っていきたいなと考えています。
――ちなみに異業種ならぬ「異時代」とのコラボレーションで、ご自身の制作に影響がありましたか
かねひさ ある時代だけが好きで、そこだけを追いかけていると再現性には限界があると思うんです。いろんな時代のものを楽しんでいるからこそ、別の時代との比較・検討を無意識に実践できる部分もあって。そういう意味では現代的なコンテンツとコラボすることで、結果的に昭和の表現やその傾向について解像度を上げられているように感じています。
(後編では近年の「レトロブーム」への印象や、今後手がけてみたいアニメーション等について聞きました)
☆かねひさ・かずや 2001年生まれ。アニメーション愛好家・研究家・動画クリエイター。幼少期から日本・アメリカの古典的なアニメーションに熱中し、2022年から個人で動画制作を開始。最新鋭の技術や現代社会を昭和アニメ風に表現した動画で注目を集める。
ユーチューブチャンネルは【https://www.youtube.com/@kane_hisa】から。















