1990年代は「人類史上最もCDが売れた時代」であり、現在のJ―POP界には90年代のリバイバルが訪れている。あらゆるジャンルが混在し、爆発的なミリオンセラーが多発した90年代は日本音楽界にとってどんな時代だったのか――。時代を代表するアルバム100枚を分析した『「90年代J―POPの基本」がこの100枚でわかる!』(星海社新書)が、話題を呼んでいる。数々の音楽ジャンルで著書を持つ著者の栗本斉氏が、90年代J―POPの魅力とキーワードを徹底的分析した。
【TKサウンド全盛期】
数えきれないミリオンセラーを出した小室さんは、サウンドクリエーターであると同時にマーケッターでもあった。今の時代に何が受け入れられるかを研究し、音楽的な知識やバックボーンを持った上で、自分の曲に落とし込んですごいポップな曲を作り出す。同時に作詞家でもあり、従来の作詞家とは違い時代の言葉を取り入れていた。職業的な作詞家や作曲家と世代交代した時代でもあったんです。
小室さんは安室(奈美恵)ちゃんがふだん発する言葉を歌詞に取り入れていたはずです。その当時の10代、20代に突き刺さる言葉を研究していた。天才でもあり研究熱心な人。プロモーション的なものも自分でコントロールしていたし、新しい時代とプロデューサーの在り方をクリエートしたと思います。曲を自作自演するアイドルも増えた。時代のスピード感がすごかったと思う。
【テレビとのタイアップ】
まだまだテレビが元気だった時代。インターネットも携帯も一般的ではないし、情報を得るにはテレビしかない時代でいわゆる「月9」のドラマの日には街から人がいなくなるなんて言われた。映画、ドラマのテーマやCMと結びついてヒットが生まれた、音楽にとっては幸せな時代だった。メジャーシーンにいろんなキーワードが乗っかり、音楽自体のバラエティー度が底上げされました。
【「イカ天」の功績】
89年に始まり90年に終了するんですが、ここから90年代初頭に続々と多種多様で従来とは全く違ったバンドが出てきた。BEGIN、たま、フライング・キッズ。ザ・ブランキー・ジェット・シティ…ありきたりのロックではなく、明らかに新しいシーンを感じさせるバンドが次々と出てきた。あの番組が90年代の雑多なジャンルが出てきた下地になったとも思います。
ジッタリン・ジンなんかは、今でも若いパンクバンドやスカバンドにむちゃくちゃリスペクトされてますからね。単なるバンドブームでなく「どんな音楽をやってもいい」と皆が考えるようになった。ロックバンドの固定観念を壊した功績は大きいですね。
【「渋谷系」の出現】
僕が一番ハマったのが渋谷系(注・90年代に渋谷を発信地とした音楽)なんです。フリッパーズ・ギター、オリジナル・ラブ、ピチカート・ファイブなどですね。音楽の価値観をガラッと変えてしまった。それまでは見向きもされなかった古いジャズとかイタリア映画のサントラ盤、ソフトロック、ラテン、ボサノヴァなどを取り入れておしゃれな新しい音楽を提示した。ファッションやビジュアル的なCDパッケージも斬新でした。
さらにはスティーヴィー・ワンダーなどのニューソウル、80年代のネオアコなど、いろんな音をその人のセンスでアウトプットして音楽を構築した。フリッパーズならビーチ・ボーイズやラヴィン・スプーンフル。古くさいロックも今聞くと新しいことを気付かせてくれた。ピチカートの小西(康陽)さんが「これはカッコいい」と言えば、みんなが中古盤を探した。古い音楽の再発見ですよね。それが新鮮だった。オリジナル・ラブの田島さんは「俺は渋谷系じゃない」と言いますけど(笑い)。
逆にサニーデイ・サービスは「遠藤賢司やはっぴいえんどがいい」と公言して「いなたい」印象があった。サウンドも70年代的なカッコよさがあった。音楽のジャンルが限りなく広がりました。
【R&B系ディーバの台頭】
最初はUA。実際はラテンや打ち込みなども多くて正確にはR&Bというより、もっと広義な音になった。
僕がガツンと来たのがSugar SoulとMISIAの出現ですね。MISIAは98年にアナログ盤でデビューして驚いたし「つつみ込むように」は衝撃だった。彼女は徐々にハウスを取り入れたスケール感の大きなダンスミュージックを展開するんですが、デビュー盤は衝撃的でしたね。
Sugar Soulはクラブシーンで盛り上がってからメジャーデビューしたんですけど(ボーカルの)aicoはとにかくズバぬけていた。立っているだけでも神がかり的なオーラがある。歌唱力も含めてディーバの名にふさわしい存在です。
R&Bだけではくくり切れないのですが、宇多田ヒカルがデビューした時はすごい人が出てきたというなという実感があった。言葉の符割と声にはとにかく驚いた。椎名林檎と宇多田の出現は大きかった。CHARAもルーツはR&Bなんですけど、気付けば独自の地位を築いていた。もう現在では女性ボーカルはR&Bが主体になっている。その意味でも彼女たちの存在感と功績はとても大きいと思います。
【栗本氏が個人的に思い入れの深い90年代の5枚(順不同)】
オリジナル・ラブ「LOVE!LOVE!&LOVE!」(91年)
→メジャーデビューアルバム。ソウルフルながらパンクに通じる衝動性が見事
フィッシュマンズ「空中キャンプ」(96年)
→空間的な音と奇跡のようなクリエイティビティ
サニーデイ・サービス「東京」(96年)
→派手なシーンで古いフォークやカントリー・ロックなどで新たな時代提示
Sugar soul「on」(99年)
→神がかり的でずば抜けた存在。R&Bディーバの時代の象徴
THE BOOM「極東サンバ」(94年)
→ワールドミュージックを徹底的に追及して新たな世界を提示
☆くりもと ひとし 1970年、大阪府出身。音楽と旅のライター、選曲家。レコード会社勤務時代から音楽ライターとして執筆活動を開始。退社後は2年間、中南米を放浪し、帰国後はフリーランスで雑誌やウェブでの執筆、ラジオや機内放送の構成選曲などを行う。開業直後のビルボードライブで約5年間ブッキングマネージャーを務めた。22年2月に上梓した『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』(星海社新書)が話題を呼び、テレビやラジオなど各種メディアにも出演している。




















