【直撃!エモPeople】絶望を乗り越えて見えてきたものとは――。舌がんの後遺症と向き合いながら芸能活動を続ける、歌手でタレントの堀ちえみが、新たな一歩を踏み出している。社会復帰を目指すがん患者ならではの悩みに直面したことや、先日発売された新著でがん専門の精神科医と対談したことで、歌や演技以外でも伝えるべきことができたという。
歌手、女優、タレントとして10代のころからテレビに出続けていた堀にがん宣告が下されたのは2019年のこと。半年間続いていた舌の痛みに耐えがたくなり病院を受診したことがきっかけだった。かかりつけの歯医者では口内炎だと言われていたため、舌が痛み出した当初は特別深く考えることもなかったという。
「あのとき、どうして口内炎だと診断されたのか、もっと早くがんの腫瘍だと気づいていれば後遺症による言語障害も残らずに済んだかもしれない。今でもそういった葛藤はあります。自分の目で舌の裏にできた腫瘍を確認できていたのですから、舌がんという病気を知っていれば自分でも疑ったり調べたりすることはできたと思います」
がんが判明したとき、進行状態はステージ4。堀は死を覚悟したという。
「ステージ4と言われたら、末期がんだ、もしかしたら死ぬのかもしれないと思いました。医師からも『生存確率は極めて低く、危険な状況です』と言われました」
堀は舌がんの一般的な治療法である標準治療を受け、舌の一部を切除して腫瘍を取り除く手術を行った。集中治療室に入ると自分はがんだという意識がハッキリとしたものに変わっていった。その後、一般病棟に移ってからは、しゃべれず、嚥下もできず、変わり果てた姿にがくぜんとし、「こんなことなら助からなければよかった」と思った。
「がん宣告をされたとき、割と平気で冷静に考えていた自分がいたんです。真っ先に仕事のことを考えたし、もしかしたらがんや闘病生活を経験することでお芝居にも役立つのかななんて。そんなふうに冷静でいられた自分は気持ちが強いんだと思っていました。でも、今回、清水医師と対談して、あのときの自分はただ実感がわいてなかっただけで、どこか人ごとのように感じていたからなんだと気づきました」
時間がたつにつれて強くなっていった絶望。舌の6割以上を切除したことで言語障害という後遺症が残った。うまく話せない、家族が自分に対して気を使っているように感じた。
「手術が無事に終わって命は助かっても、後遺症が残ってしまったし、がんをもっと早く見つけてもらえなかった悔しさとか憎しみとかは癒やされないままなんですよね。回復していく体力と反比例してメンタルが落ちていくんです」
他にも、心を痛めたことはたくさんあった。
「私は、がんという病気に重いも軽いもないと感じているんです。原因を探そうとしても実際のことは分からない。でも、こればかりはなった者にしか気持ちが分からないから、『疲労がたまっていたから』とか『働きすぎたから』など原因探しをしたい人もいるようです。がん家系だとか、家族にも遺伝するのではないかと言われたり、差別的なことを言われて傷つくこともありました。自分自身でも天罰が下ったのかなと考えすぎて追い込まれるときもありましたね」
それでも、元気を出さないといけないと空元気で頑張った。無理をして…。
「前向きになるために、前向きな言葉を話したり書いたりずっとしていたけど、本当はマイナスな部分も持っていて、それを表に出してはいけないと思っていたんです」
だからこそ、悩み、もがき、苦しんだ。堀は家族の支えもあって、何とか乗り越えることができたが、実は同じように苦しむがんサバイバーは非常に多い。昨今、医療技術が発達したことにより、がんになっても助かる確率や治る可能性は高くなった。堀もステージ4と宣告されたが一命をとりとめ、社会復帰できるようになった。しかし、そんな人たちをフォローする仕組みはまだまだ未成熟とも言える。
「社会復帰できるような体に治していただいても、メンタルケアまではまだ追いついていない。うつ状態になって眠れない患者さんや、暴れてしまう患者さんに対しての治療はあっても、私のように静かに心をむしばまれていく人に対するケアは、医療体制としてはまだあまり発達していないそうです」
今回、堀が新著で対談した清水研医師は主にがん患者やその家族の心のケアを行っている、日本でも数少ない精神科医の1人だ。
「初めてお会いしたとき、清水先生が『しゃべれない、食べられないという楽しみが奪われてしまったから、おつらいでしょう』とおっしゃってくださって、私は素直に『はい』と言えました。この方は分かってくださる方なんだと思い、ホッとしたような気持ちになったんです。清水先生のようながん患者の心のケアを行う先生が手術前や手術後にそばにいてくれたらよかったなと思いますし、そういった先生が増えることを願っています」
このような医療界への思いやがん患者への寄り添い方、さらには舌がんを含めた早期発見の重要性を、自分の経験を通してより多くの人に伝えていく。それが今の堀の生きがいだという。
「がんを経験する前までやっていたお仕事はしゃべらないからできないということもありますが、それ以外の活動につながる仕事をやっていくことが自分の心の傷を癒やす方法なのかなと感じています」
☆ほり・ちえみ 1967年2月15日生まれ。大阪府堺市出身。第6回ホリプロタレントスカウトキャラバンで芸能界入りし、82年3月「潮風の少女」でデビュー。83年に出演したドラマ「スチュワーデス物語」が日本中で大ヒットし、アイドルとして歌にドラマに活躍。その後は7児の母として、テレビ出演の他、教育や食育にまつわるトークショー、音楽活動と幅広く活動している。2019年、ステージ4の舌がんと診断され、患部の切除手術。リハビリを続けながら、芸能界に復帰。22年はデビュー40周年。先月、清水医師との共著「今はつらくても、きっと前を向ける 人生に新しい光が射す『キャンサーギフト』」(ビジネス社)を発売した。














