【直撃!エモPeople】アナログレコードが再ブームとなっている現在、レコードをテーマにしたマンガが話題を呼んでいる。KADOKAWAのマンガ誌「青騎士」に連載中の「音盤紀行」(毛塚了一郎作)だ。膨大な知識に支えられたディテールに加え、祖父の遺品レコードの秘密、共産圏の禁制地下レコード店、近未来米国のダイナーに置かれた古びたジュークボックス…レコードを取り巻く様々な人間ドラマが描かれた短編集。5月に第1巻が発売されると好評を呼び、早くも再重版が決定。作者の毛塚氏に作品の秘話を聞いた。

 ――執筆の契機は

 毛塚氏「青騎士」から連載の話をいただいたのが一昨年の10月。一番描きたいテーマがレコードでした。実はその前から同人誌でも同じテーマで2年以上描いていて反応もあったのですが、初めて商業誌で描くにあたり、同人誌とは違うもっと広いテーマでレコードの話を描きたいと思った。日本以外のいろいろな国の話を描きたかったので、1話完結のオムニバス形式にしました。

 ――レコードをめぐる舞台も70年代東欧、70年代フィリピン、70年代北海、近未来米国と多種多様です

 毛塚氏 第1話の日本の中古盤屋の話を拡大することもできましたが、海外のレコードの雑誌や文献、サイトを調べて知識を蓄えているうち、海外の状況を描きたいという気持ちになったんです。

 ――単なるマニアのみならず、一般の読者にも突き刺さるヒューマンドラマになっています

 毛塚氏 普遍的なドラマ=コンセプトを持って描かなければならないと思った。より多くの人に読んでもらいたかったし、レコードという題材はマニアックになりがちなので「レコードを聴かない世代」にも伝わる話を描かなければいけないなと。マニアックさはほどほどにして、レコードを聴かない人にも通じるドラマを描きたかった。

 ――70年代共産圏で闇レコード屋を探す少女の話は胸に響きます

 毛塚氏 個人的な音楽体験は誰もが持っている。その純粋さを描きたかった。第2話は共産圏というシビアかつ自由の少ない状況で音楽を愛する人たちを描いた。初めて海外を舞台に描いたのでいい経験になりました。昔のソ連などの音楽状況を調べていると、それだけでもマンガになると思った。共産圏の主人公に対する壁や試練とか…。ソ連の文化やレコード事情を絡めたマンガはこれまでなかったと思います。

 ――架空のバンドとフィリピン人少女の交流、60年代に欧州で全盛を極めた違法の海賊ラジオの話もスリリングだ

 毛塚氏 1巻に登場するキャラクターはその後も登場させるつもりです。アンケートやSNSの反響で「続きが読みたい」という声が多かったんですよ。1話で終わらせるにはもったいないし、もっと展開したい。共産圏時代のバルト三国あたりを想定した海賊ラジオの話は面白いテーマかなと思う。歴史的には時代のあだ花でしたけど、これは続けたい。最後まで描きたいですね。

 ――自身の音楽体験は

 毛塚氏 中高生のころから音楽に興味を持ち邦楽ロックを聴いていました。2005年ぐらいですね。そのころ、90年代の安いCDを買いあさってました。洋楽に興味を持ったのは大学に入った時期。当時はやった渋谷系のルーツを探るような形でレコードに移行した。アナログプレーヤーは祖父の家にあったので、父の部屋にあったレコードを聴いてました。ビートルズ、キング・クリムゾン、ピンク・フロイド、ムーンライダーズ、CCR…父と話はしなかったけどいい感じのレコードが多かったです。なので最初は60年代のレコードから入りました。一番好きなのはビートルズの「ラバー・ソウル」。「ドライブ・マイ・カー」で始まるイントロやジョンの「ノーウェア・マン」とか最高ですね。全てが詰まっている完成されたアルバムと思います。

 ――レコードへの思いはハンパではない

 毛塚氏 僕は大学生の時期にスムーズにCDからレコードに移行できた。よく行くお店がCDとレコードがあったので安いレコードを買い集めるようになりました。閉店しちゃいましたけど近所にあった昔ながらの江古田の「おと虫」や「ココナッツディスク」はよく行きました。それと新宿の「ディスクユニオン」です。雑然とした空間を描くのが好きだったので、レコード屋を描くのは性格的にも合っていたと思います。レコードを聴くのは手間がかかる部分が結構好きですし、盤が詰まったお店に入る時のドキドキ感は(執筆上で)一番大事な感覚ですね。

 ――2巻目が楽しみだ

 毛塚氏 第1巻で出てきた純粋な音楽への思いを持ったキャラクターの話は展開していきたい。もうひとつはレコードが作られてから流通するまでの話を描きたい。海外取材は厳しい状況ですが、詳しく調べながら国や舞台は広がっていくと思います。それと表紙の店内のレコードは青いラベルは実際にある盤、黄色いラベルは架空のバンドなんです。内緒でしたけど(笑い)。

 ――これから作品に触れる人にメッセージを

 毛塚氏 今は大変な時代ですが音楽はいつも人に寄り添ってくれるものだと思うので、音楽を楽しめる時代になってほしいし、皆さんも誰か好きなミュージシャンを1人つくって音楽を愛し続けてほしい。この本を読んでレコード屋に行っていただければ本当にありがたいです。今、実際には閉店するお店が多いので、リアルに音楽を体験できる場所を大事にしていただければと思います。

 ☆けづか・りょういちろう 1990年3月31日生まれ。東京都出身。同人誌で作品を発表した後、KADOKAWA「青騎士」で商業誌デビュー。「青騎士」創刊号から「音盤紀行」を連載。好きなものはレコードとレトロ建築。