意図せず入ってくる情報は「ノイズ」なのか、「出会い」なのか――。「映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形」(光文社新書)の著者、稲田豊史氏(47)と本紙おなじみの流通ウォッチャーの渡辺広明氏(54)が徹底討論。Z世代が抱える心理を読み解くと「コスパ」を超える概念「タイパ」の世界が見えてきた。
渡辺広明(以下渡辺)はじめまして。ほんのさっき稲田さんの新刊をすべて読み終えたところです。速読ではなく、Kindleでしっかり読みましたよ。
稲田豊史(以下稲田)ありがとうございます。倍速視聴や10秒飛ばしが多くの人の習慣となっていることに、私が気付いたのが約2年前。本の基になった9本のネット記事は賛否を含めて大きな反響をいただいたんですが、渡辺さんは普段、倍速視聴されますか?
渡辺 僕は仕事柄、多くの情報を仕入れないといけないので倍速視聴する派ですね、ニュースを中心に。
稲田 なるほど、お仕事のため、効率良く情報を収集するために早送りするというのは分かるんですよ。ただ、私が驚いたのは映画やドラマといった“作品”を早送りで見る人たちが増えているという事実なんです。たとえば連続ドラマの途中を飛ばして見る人もいるし、あらすじだけ分かればいいからと要約サイトしか見ない人もいる。それじゃ“作品”を味わったことにならないだろうと抱いた違和感が、私の取材の出発点でした。
渡辺 僕はNetflixで話題になった「愛の不時着」はちゃんと見た。でも「梨泰院クラス」と「イカゲーム」はちょっと無理で途中でやめました。話題のヤツを見なきゃいけないと思ったんですが、興味が湧かないと見続けられないんですよね(苦笑)。
稲田 よくご覧になってますね! 若者たちはLINEやInstagramなど多くのグループ内で「コレ見た方がいいよ」とすすめられた以上チェックしないといけないという同調圧力が働いているから、手っ取り早く知る方向に流れています。また、今の大学生は昔と比べて圧倒的に時間もカネもないという社会的要因も関係していることも取材で分かりました。
渡辺 なるほど。そもそもネトフリもアマプラもTVerにも倍速視聴や10秒スキップの機能が搭載されていることもありますよね。昔はわざわざVHSのビデオを借りに行きましたねぇ…。
稲田 はい。お目当ての映画が貸し出し中だったら渋々他の物を借りて見てましたね(笑い)。一方、動画サブスクでは視聴するたびに料金を支払うわけではないので、一作品ずつのありがたみが減っています。もう1回見ればいいじゃんと。
渡辺 そこには24時間何でも買えるコンビニが社会に与えた影響があるかもしれませんね。Uberなどのフードデリバリーに続いて伸びると言われているのが、クイックコマース。これは食品や日用品を10~30分で運ぶ即配サービスです。どれだけせっかちなんだよって思うかもしれませんが、「配達がいつ来るか分からないのが嫌だ」というストレスがあるから事業として成立すると見られてます。
稲田 そんなところにも効率が…。効率性を重視する人だと2時間の映画はリスクだと考えるんです。2時間もかけて見てつまらなかったら2時間をムダにすることになる。無言のシーンなんて意味がないと。逆に2時間の作品を1時間で見られたらタイムパフォーマンス(略してタイパ)がいいとなる。そう考えると興味深いのが約3時間の長編映画「ドライブ・マイ・カー」のヒットです。間も多いし、それこそ時間を味わう作品なので早送りしたら何も伝わらない。それがあそこまでヒットしたのは、やはり「アカデミー賞に絡んだ話題作だから見なければならない」という同調圧力もあったからだろうなと思います。
渡辺 僕がまさにそう。途中でトイレに行きたくなるくらい長かったです(笑い)。ところで、80年代後半、バブル期を表すものとして「ほしいものが、ほしいわ。」という糸井重里のキャッチコピーがありました。今では、便利なレコメンドエンジンが無際限に見たい欲求をかなえてくれているような気がするけど、稲田さんはどう思います?
稲田 う~ん、「見たいものだけ見たい」という欲求の裏に「見たくないものは見たくない」、つまり自分にとってノイズを巧妙に排除したいという意思を感じるんです。でも、私は偶然出会うような情報を切り捨てちゃダメだって思いがあります。
渡辺 効率じゃない世界、インターネットには載ってない情報があるってことも分かってほしいですね。
稲田 はい。おじさん的な視点に立つとまったく同意です。ただ、資本主義の枠組みの中で、みんなの利益と効率化を最大限にすることを考えれば、倍速視聴も切り抜き動画も必然だと理解を示してあげることも大切ですね。
☆いなだ・とよし 1974年生まれ。愛知県出身。ライター、コラムニスト、編集者。横浜国大卒業後、ギャガ・コミュニケーションズ(現ギャガ)入社。キネマ旬報社でDVD業界誌の編集長。書籍編集者を経て13年独立。著書に「オトメゴコロスタディーズ フィクションから学ぶ現代女子事情」(サイゾー)、「ぼくたちの離婚」(角川新書)がある。
☆わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約760品の商品開発にも携わる。著書に「コンビニが日本から消えたなら」(KKベストセラーズ)。












