ロシアによるウクライナ侵攻が予断を許さない中、ウクライナ映画界を代表する監督の2作品が注目を集めている。それは日本未配給の「アトランティス」(2019年)と「リフレクション」(21年)だ。この2作品は、今回の危機を予見していたと言われている。日本でも3月末、東京都内の映画館で緊急上映し、その収益でウクライナの映画人を支援する企画が立ち上がった。
「アトランティス」と「リフレクション」のメガホンを取ったのは、ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督(50)。旧ソ連(現ウクライナ)で生まれた同監督は、挑戦的な作品作りに定評がある。14年に製作された「ザ・トライブ」は、全編手話で演じるという作品で、カンヌ国際映画祭の批評家週間でグランプリを獲得した。
ある映画関係者は「『アトランティス』と『リフレクション』はロシアとの戦争や、その後をタイムマシンでのぞいてきたかのようなリアルさがあり、注目されています」と話す。
現在行われている戦争の〝戦後〟を描いているのは「アトランティス」だ。舞台は、ロシアとの戦争が終わってから1年後、2025年のウクライナ東部。地雷が埋められた荒廃した土地で、戦争でPTSD(心的外傷後ストレス障害)となった元兵士が主人公となっている。18年1月にウクライナの都市マリウポリで撮影され、全編ワンシーン・ワンショットの長回しなのが特徴だ。
一方、〝戦時中〟なのが「リフレクション」。やはり舞台となるのは戦線激化するウクライナ東部だ。14年にロシア軍に捕えられたウクライナ軍の外科医が、収容所での拷問や暴行など非人道的な行いに苦悩する様子が描かれる。いずれの2作品も、今回のロシア侵攻をほうふつとさせる仕上がりだ。
「14年にロシアはクリミア半島を併合し、ウクライナ東部地域にまで手を伸ばしました。危機感を抱いたヴァシャノヴィチ監督は、映画という手段で戦争を食い止めようとしたのです。結局は今回、現実のものとなってしまいましたが…」(同関係者)
戦争を食い止めようとしたのは決して誇張ではない。「アトランティス」は、19年のベネチア国際映画祭オリゾンティ部門に出品。また「リフレクション」も、21年のベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品された。後者については最高賞の金獅子賞を狙っていたという。
「ベネチア国際映画祭は、世界三大映画祭の一つ。何らかの賞を受賞すれば、世界中から注目が集まりますからね」(同関係者)
この2作品は日本で公開される予定ではなかったが、今回のロシアのウクライナ侵攻を受けて特別上映企画(29~31日、東京・渋谷のユーロスペース及びユーロライブ)が立ち上がった。発起人は前東京国際映画祭プログラミング・ディレクター・矢田部吉彦氏。今回、権利者から特別に上映許可を得られたという。また、会場費や字幕制作費をまかなうためクラウドファンディングもスタート。同企画の宣伝担当者によると、200万円近い支援金が集まっている(15日午後11時現在)。経費を上回った場合は、映画人のサポートに使われるとのことだ。
気になるのはヴァシャノヴィチ監督の安否だが…。
「実は監督とはつい最近まで連絡が取れなかったんです。1度、キエフの防空壕から連絡があったきりでした。ところが、先日、日本側の関係者に連絡があったとのことで生存が確認されました。ウクライナ国内にいるのか、国外に脱出したのかはわかりません」(同担当者)
ウクライナの映画人たちが安心して作品作りに没頭できる日が一日でも早く来ることを願わずにはいられない。












