新宿ゴールデン街で飲み出して50数年になる。この街は常に「反骨精神溢るる人々の溜まり場」として栄えてきた。1960年代終わりの学園闘争、新宿騒乱、西口フォークゲリラ、反安保闘争…。それら疲れた戦士達の休息場でもあった。そんな歴史が脈々と流れている。最近はそれも遠い昔の事のようにも思えて寂しいが…。

 俺たち演劇人や映画人、文芸関係、マスコミ関係、いわゆる業界人達もどこか世を拗ねて捻くれ者達が多い。その精神が街を支えてきたと思う。今も酒を煽りつつもそんな政治の話が飛び交う。よく酒場で政治と宗教と野球の話はするな、と言われたものだが…。

 私の交友録も何も芸能人ばかりではない。最近は映画評論家の寺脇研(69)と飲むことが多い。彼は元文部官僚というお堅い世界の人だった。が、今は映画評論、落語評論から実際映画制作のプロデューサーまでやっている。彼の作った「子どもたちをよろしく」には出演させてもらった。次回作「なん・なんだ」にも旧友の下元史朗(73)と共に出演した(監督・山嵜晋平/共演‥烏丸せつこ=1月15日ケイズシネマ公開)。

 そんな縁でクラクラには元文科省事務次官・前川喜平(66)もよく立ち寄ってくれ「椿組」の芝居にもよく足を運んでくれる。今年春の「シャケと軍手」(スズナリ)観劇後は東京新聞の「本音のコラム」に児童虐待に絡め「社会問題として演劇が成立している」とまさに本音を書いてくれた。

 数年前の森友問題、加計問題が世間を騒がせていた時は寺脇、前川、望月衣塑子(東京新聞記者)や話題の歴々(書けない人々)が集まり呑み会議を開いていた(笑い)。落語家・立川談四楼師匠(70)も寄ってくれたりと人が人を呼び、繋がっていく。酒場冥利に尽きます。

 映画界では平山秀幸監督(71)の「レディ・ジョーカー」以来、彼の作品には必ず出させてもらっている。「太平洋の奇跡」では息子(流太)も出ていて、撮影地のタイ、バンコクではよく飲んだ。そんな繋がりで「クラクラ」にもよく来てくれて次の仕事にも繋がって…。映画監督たちも出演交渉を直接顔を見に来てくれ、話をして決まる事が多い。店にいると出向かなくても、皆さん来てくれるから嬉しい限りだ。

「クラクラ」はカウンター席の部屋と別部屋に16人座れる大テーブルがあり、映画や芝居の打ち上げなどで利用してくれる人達がいる。そんな幅広い人脈、奇人変人に助けられて、店はこのコロナ禍でも何とか経営が続けられている。 (敬称略)

 ◆外波山文明(とばやま・ぶんめい)1947年1月11日生まれ。役者として演劇、テレビ、映画、CMなどで活躍。劇団椿組主宰。新宿ゴールデン街商店街振興組合組合長。バー「クラクラ」オーナー。