愛媛県のご当地アイドル「愛の葉(えのは)Girls」メンバーで今年3月に自殺した大本萌景(おおもと・ほのか)さん(16=当時)の遺族が11日、都内で会見し、所属事務所側に総額約9200万円の損害賠償を求める訴訟を起こすと表明した。遺族は自殺原因が事務所のパワハラにあると主張。会見では“奴隷契約”の一端と、恫喝まがいの発言が明らかにされた。セクハラやパワハラが横行するマイナーな地下アイドルたちの労働環境は、果たして改善されるのか。

 萌景さんは2015年からグループに所属し、研修期間を経て正規メンバーに昇格。物販で売り上げ1位になるなど、人気メンバーだった。今年に入ってからリーダーも務めた。だが、活動は多いときには1日13時間にも及んだ。それでも研修時代は無給で、正規メンバーでも月に平均3万5000円のあり得ない低賃金だった。

 事務所スタッフとのLINEでは「何寝ぼけた事言ってんの?」「次また寝ぼけた事言い出したらマジでブン殴る」などのパワハラ発言も残っている。社長と萌果さんの通話がスピーカーで聞こえる状況で「お前は誰にものを言いよるんぞ、おお?」といった“恫喝”も聞こえてきたという。

 この日、母幸栄さん(42)、姉可穂さん(19)と弁護団が会見し、12日に松山地方裁判所に訴状を提出することを表明した。年内には裁判が始まると見られる。

 事務所との関係に限界を感じた萌景さんは家族に「事務所を辞めたい」「愛の葉辞めたい」とこぼすようになった。

 昨年6月に社長に辞意を伝えたところ、学業と活動を両立するべく、全日制高校への進学を提案され、費用を貸す約束を結んだ。ところが入学費支払日に、事務所は貸し付けを撤回。裏切られた失意の萌景さんは同日夜に、社長と電話で話したと言い、友人と友人母に「(辞めるなら)1億円を支払え」と社長から言われたと打ち明けたという。その翌日、「社長が怖いんよね」と幸栄さんに漏らした萌景さん。今年3月21日、命を絶った。

“1億円発言”が自殺のトリガーとなったようだが、大きな原因は貸し付けの撤回にあると見られる。自宅を訪れた社長は幸栄さんに「責任? 考えたことないですね」と自殺との関係を否定した。

 会見では、アイドルをがんじがらめにする“奴隷契約”も明らかに。

 契約書には義務や契約違反への制裁が細かく規定されていた。弁護団によると、トレーニングやイベントへの無断欠席、無許可のSNSやアルバイトなど14項目もの禁止行為が設定された。罰則は厳重注意に始まり、始末書の提出、報酬の減額、謹慎、昇格資格の停止・降格、罰金、懲戒的解雇までさまざまだ。中でも罰金は、遅刻や忘れ物は1回5000円、悪質ないじめには3万~5万円。スキャンダルを起こした場合は50万円以上を払う必要があった。特に問題視したいのが50万円、100万円の罰金が設定された情報漏えい事項だ。

 情報漏れの罰則は家族にまで適用される可能性がある。実際、事務所との関係に悩む萌景さんを案じた幸栄さんが何を聞いても「それは言ってはいかんことになってるんよ」と答えたという。

 この裁判の行方を地下アイドル業界も見守っている。

「夢のために活動する女の子は、大人にとって自分たちの言うことを聞く都合のいい存在。反抗的な態度にも『降格』のひと言で黙らせられる。最低賃金を大幅に下回るブラック労働だって『芸能界はこんなもんだから』でうやむやにできる」と関係者は“搾取”の現実を語る。

 メンバーに肉体関係を迫るスタッフも多く「JKビジネスの経営者と同じで、支配下の未成年に手をつける運営の噂は少なくない」(前同)。

 萌景さんへのセクハラはなかったようだが、幸栄さんは「愛の葉」内のセクハラについて「ちらっと聞いたのは正直あります」と語った。

 いずれにしてもマイナーアイドルの立場は弱い。弁護側は「権利関係が確立していない状況の事件。注目してほしい」と訴えた。