女優の伊藤万理華(26)が、デビュー10年の集大成といえる書籍「LIKEA(ライカ)」を20日に発売する。乃木坂46を卒業して5年。女優として順調なキャリアを重ねるが、それは引きこもった時期にも諦めず前を向いたからこそ。クリエーターとしても才能を発揮する伊藤が、10年の思いを明かした。

 ――昨年は「お耳に合いましたら。」で地上波連続ドラマ初主演。初主演映画「サマーフィルムにのって」では、TAMA映画賞の最優秀新進女優賞を、日本映画批評家大賞で新人女優賞を受賞。出演映画「そばかす」公開を16日に控え、卒業後も順調そのもののように見える

 伊藤 実際は順調でもないんでもなくて。今はそういう風に言ってくださる方が多いけど、コツコツやってきたこの10年だと思います。乃木坂46を卒業してからの5年間の積み上げも大きかったかと。年齢的にもそうかもしれないですけど、私にとっての1年1年はすごく大きくて。それこそ、引きこもった時期もあった。何も生み出せてなくて焦りもあるし「なんで自分はできないんだろう…」って、家にこもってる時期もたくさんありました。

 ――そこからなぜ這い上がれたというか…腐らなかったというか

 伊藤 「もういいや!」ってすべてを投げ出したくなるような時期って、誰しもあると思うんです。きっとそれをみんな乗り越えて生きていると思う。ただ、私はこのまま何もできなくてもいいやって思う瞬間はなかった。そういう風に思わないために、インプットをし続けて。それが今回の「LIKEA」や、3度目の個展のテーマにもつながっています。

 ――書籍「LIKEA」だけではなく、そこから着想を得てさらに発展させた、展覧会(19日まで、東京・渋谷パルコのGALERY X BY PARCO)にもテーマはつながると

 伊藤 私の好きなものの〝原点〟を探っていったというか。好きなものについて、なんで好きになったんだろうって、一番最初を探していった。今はすごく私について〝カルチャー好き〟と書いていただいたりするんですけど、そこの元になった部分って、なんなんだろうって改めて考えて。それがちょうど4~5月が終わったころから、夏くらいに考える時期があった。それで、本や個展も本格的にテーマが決まった感じでした。

 ――好きなものの原点を探る上で、何か具体的にしたことは
 
 伊藤 誰かと話したりもしたんですけど、部屋にある好きなものを「まず誰に勧められたんだろう」から「なんで好きになったんだろう」と。だけど、考えれば考えるほどこれは誰かにもらったもので、自分の意思で好きになったものじゃないじゃないかと思って、暗くなってしまった時期もあって。夏ごろは落ち込むくらい考え込んでました。ただ「いや、そういうことをひっくるめて、私じゃん!」みたいなところに落ち着いた。私は一番最初、自分はどんな風に始まったんだろうというところから考えた。この本の最後にも、スタッフさんに「古い記憶の中で一番好きだったものは?」と質問をしてもらって。仕事で忙しいと好きなものも忘れてしまったり、なかなか考えたりもしなくなるじゃないですか。私はすごく何も生み出せてなかった時期にすごく考えて、生まれて自我が芽生えたころから、いい意味で私って変わってないなって「よかった、大丈夫」と思えて自分を認めることができた。だからこういうものが生み出させていることに、ちゃんとした理由があるとわかってよかったです。

 ――突発的に生み出した作品ではないと

 伊藤 個性的なものを出した時にそう思われがちなんですけど、そうではなくて。もちろん衝動的な部分もあるけど、どんどん気持ちを積み重ねていって、作品にすることを一番大切にしています。読者の人やファンの人とかにちゃんと伝えられることができたらいいなとは思います。

 ――それにしてもなぜ伊藤さんは作品まで〝昇華〟できるのか。そのモチベーションは何か…。引きこもった時期から這い上がることは難しいと思うが

 伊藤 なんでも悩みは人間関係から生まれると思うんですけど…。決定的に思ったのは、前回「ホームシック」という個展をパルコさんで開いた時に、ぶっちゃけて言うと、全然仕事がなくて(笑い)。ここからどうしたらいいのか考えるじゃないですか。その時にいま、私は何に悩んで、ここで立ち止まっているんだという結論に至ったんです。そして、人間関係かもしれないって思ったんです。今まで話してきたことではあるんですけど、そこで家族とうまくいってないからかもって。何をするにも暗くって、改善しないとこのまま落ちていきそうだなって思った時に「あ、まずは親とコミュニケーションを取ろう」と。どうしたらいいか考えた時に、普通なら会話しようとなるんでしょうけど、なかなか話すって難しい。私の場合はそれが「一緒に服を作ろう」でした。緒に作ることがきっかけで、コミュニケーションが生まれました。そこから漠然とギャラリーをしようとなって、親とのことも、その話をした後からどんどんその場でいろんな発想が生まれて…。

 ――親への感情も変わったと

 伊藤 見たことない何かを生み出せるかもしれないって、すごくプラスな感情になっていきました。こうやって思えるのは自分しかわからないし、すごく衝動的なのかもしれないけど、これがなかったら私は前に進めないかもしれないって、思いで作りました。あのときはそういう経緯もすべてパルコさんに話して企画書を書いて。関わってくれたクリエーターさんにも親のことも含めて話して作品を作りました。私は何か会話する時に一個モノづくりを介したりすることで、助けられてきたんだなって改めて感じました。

 ――ご両親もクリエーターでもある。血を感じたりしたのでは

 伊藤 ありました。だからその時に感謝できた。ショートフィルム制作の過程が好きだったり、スタッフさんと話すことが好きだったり。そこで生まれるコミュニケーションが私にとって、生きがいだと改めて気づいたことも大きかった。

 ――さまざまな経験を経て、ここ1~2年は女優としても活躍。今までとはまた違う充実を感じる部分もあると思うのですが

 伊藤 「すごく順調ですね」と言われることも増えていますが、私にとっては変わらないものを積み上げてきたからこそだと思っています。これからも自分を信じてやっていったら、もっと幅が広がるし、もっといろんな人に出会えるなって思っています。

 ――苦しい時期も必要だったかもしれない

 伊藤 乃木坂46のころから内面も変わっていっているとは思いますけど、変わらない部分を大切にしていこうと思います。考え方も1年ごとに変わっていくけど、ネガティブに変わっていくんじゃなくて。いろんな人生経験を経て、人間関係でつらいことがあっても、それが作品になって昇華すれば、なんかプラスかなとか(笑い)。そう思えるようになりました。

 ――前回の個展を踏まえ、現在は3回目の個展が開催中

 伊藤 前回はコンプレックスを克服するものだったんですけど、今回は過去を振り返りながらも好きなものを大切にすること、そうすることで生まれた作品とか、そういう人たちが集まっているというか。自分を曲げないで大切にしてきたものたちが、何かをきっかけに出会って、共鳴した人と瞬間的に生まれて…。抽象的になっちゃうんですけど、衝動的に生まれたものでもそれは自分自身のもので、核になるものだなと感じています。

 ――今後はどんなことを

 伊藤 今までの個展は外で活動をしすぎると、窮屈になってその分が作品に爆発している感じになってると思っていました。モノ作りにおいても、お芝居をすることで自分がなくなっちゃうと感じて、その鬱積を作品として生み出していた。1回目の個展とかもアイドル活動をしていると窮屈になって、その思いを作品に出しちゃうみたいな感じでした。ただ、いまはそれがどんどん変わっていって、それこそ最近出会った主演でやらせていただいてる映画や、出会ったスタッフさんとかすごく肌に合う作品に出会って、そこで救われることがたくさんあって。そこで得たものも含めて、プラスに捉えたいなって思っています。具体的な活動は本当にわからなくて…。2年前に個展をやった時も「これが最後」と言ってましたから(笑い)。本について「遺作」と言いましたけど、本当にいまは「これが最後」と思っています。もうやらないと思うくらい、絞り切りました。

 ――作品の目標はあえて決めないと

 伊藤 また新しい何かを生み出すために…。別に個展を開くとか本を出すとかではなく、自分が生きていくため、楽しむためにいろんなものに躊躇なく飛び込んでいきたいという気持ちはあります。あとは何でも否定しないこと。最初から否定しないで、感覚的に面白いと思ったものは受け入れて、新しい自分を更新していくことが次の目標です。

 ☆いとう・まりか 1996年2月20日大阪府生まれ、神奈川県育ち。2011年8月に乃木坂46の1期生オーディションに合格。17年に卒業。現在は女優として映画、ドラマ、舞台などで活躍する一方、クリエーターとしても才能を発揮。出演映画「そばかす」は16日公開。