〝大谷翔平ケース〟多発の可能性も――。新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化する中で、東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長(56)ら主催者サイドは、開催を前提とした姿勢を崩そうとしていない。しかし世論は宇都宮健児弁護士(74)が行っている署名活動に35万筆が集まるなど中止一直線。感染症のエキスパートで内科医の上昌広・医療ガバナンス研究所理事長(52)も、電話直撃に五輪開催の危険性を力説した。


 東京五輪開催中止を求める国民の声は高まるばかりで、各メディアの世論調査でも今年の開催について「反対」が「賛成」を上回る。宇都宮氏が行った署名活動に35万筆が集まったのもその表れだ。

 この署名を受けて、橋本会長は14日の定例会見で「東京大会を開催できるのか、何の意味があるのかということで、私にもそういった意見が寄せられている。そこは真摯に受け止めないといけない」と理解を示す一方で「海外からの選手団、関係者の健康管理を含めて、行動の制限を厳しく設けることによって安心と安全が確保されれば、東京大会の実現は可能になる。反対をされる方の懸念材料を一つひとつ丁寧に解決をする努力をしていきたい」と言い切った。

 一貫して「開催ありき」の姿勢だが、上氏は「大会を開催しても選手にもハッピーじゃないのでは」と疑問視する。新型コロナウイルス対策などをまとめた「プレーブック」によれば、海外選手らは出国前、入国時はもちろん、入国後も原則として毎日検査を実施。上氏は「ある程度のリスクは抑えられると思う」と話すが、厳しい行動制限を伴うため「ホテルに缶詰め状態で練習が不十分になることも考えられる」と指摘した。

 さらに、国際オリンピック委員会(IOC)が東京五輪・パラリンピックに参加する選手団に向け、米製薬会社大手ファイザー製のワクチンを無償提供すると発表して波紋を呼んだが、アスリートにとってももろ手を挙げて歓迎することではないという。上氏は米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平投手(26)がワクチン接種後に「体調がよくなかった」と話していたことを引き合いに「接種のタイミングによっては選手のパフォーマンスが低下するかもしれない。つい最近は20代で亡くなった方もいた。万が一、感染すれば重症化するリスクもあるということ。アスリートが肺に障害を残すようなことになれば、今後の競技人生で大きなマイナスになる」とも付け加えた。

 そもそも五輪は、国際的な「スポーツの祭典」かつ「平和の祭典」だ。上氏は「インドの感染状況は深刻で、ブラジルも感染者が増えている。日本やIOCがやりたいと考えていても、それは世界で決められるべきこと。今のままでは世界中から『これでやっていいのか』という声が上がるのは当然。それに緊急事態宣言が発令されている国での開催はどうなのか」と〝正論〟を展開した。

 現在の状況を踏まえると、今後すぐに感染状況が改善することはなさそう。このまま本番まで突き進んで、誰が幸せになるというのか。