ネットフリックスで配信され、フジテレビ系で放送中の人気恋愛リアリティー番組「テラスハウス」に出演し、23日に急死した女子プロレス団体スターダム所属の木村花さん(22)の悲劇で、テレビ界はリアリティー番組について根底から再考を迫られそうだ。SNSの誹謗中傷などに関し、利用者のネットリテラシー向上の取り組みも急務に。25日、東京都内の花さんの自宅から遺書のようなメモが見つかり、自宅のドアに「有毒ガス発生中」と書かれた紙が張られていたことも判明。自殺の可能性があり、警視庁が亡くなった経緯を調べている。

 番組内で男性共演者をとがめるなどの言動からSNS上で誹謗中傷を受けていた花さんが亡くなり、テレビ業界も危機感を募らせている。

 テレビ関係者は「今回の“テラハ事件”は、日本のテレビ界にとって大きな転換期を迎えざるを得ないきっかけになるような出来事と言っても過言ではありません。今後はそれがネット配信形態でも、恋愛リアリティー番組を制作できなくなる可能性が浮上しているからです」と語る。

 こうした恋愛リアリティー番組の売りは、出演者が等身大の一般人もしくは素人まがいの芸能人であるということだ。だから、視聴者は感情移入しすぎるのかもしれない。

「出演者たちは番組が用意した偽のプライベート情報を公開してきました。さらに視聴率や番組盛り上げのために、演出サイドの意図でわざとヒールになる出演者が必要でした。今回、番組サイドの過剰演出の要望にサービス精神旺盛だった木村さんが見事、応えた結果による悲劇であることは、ほぼ疑いがないようです」(同)

 リアリティー番組といっても“現実”ではなく“ドラマ”なのだ。

「これまで数多くのシリーズや似たような番組が放送されてきました。今回のケースは、氷山の一角だという声が出ています。今後、『私もネットで誹謗中傷にさらされていた』とする出演者が相当数出てくるかもしれません。『番組サイドの指示で演じていた』と暴露されることもあるでしょう。その場合は損害賠償請求にも発展しかねません」と指摘する。

 実際、恋愛バラエティー「あいのり」(フジテレビ系)に出演していたプロレスラーの崔領二が24日、自身のブログで出演を振り返り、メリットも挙げた上でデメリットとして「果てしない誹謗中傷」に触れている。

 恋愛リアリティー番組は他にもある。現在、日本のテレビ局や配信メディアで「テラハ」と全く同じ番組と指摘されているのが、Amazonプライム・ビデオの人気オリジナル配信番組「バチェラー・ジャパン」だ。

 キー局のある編成マンは「『バチェラー』でも出演者に対する誹謗中傷は絶えることがない。いずれ『テラハ』と同じような悲劇が起こらないと誰が断言できるのか。NHKや日本テレビはこの種の番組を禁じ手としてきただけに、傷は浅い。だが、フジテレビや、傘下のAbemaTV(現ABEMA)で盛んに恋愛リアリティー、恋愛バラエティーを制作しているテレビ朝日は危機的状況に追い込まれている。『テラハ』にBPO(放送倫理・番組向上機構)の調査が入るのか、真実が全て明らかになるのか…」と話す。

 花さんの訃報を受け、菅義偉官房長官は25日の記者会見で「心よりお悔やみ申し上げる」と述べた上で、SNSの利用について「ユーザー一人ひとりが他人を傷つけるような書き込みをしないよう、リテラシー向上のための啓発を行うことが重要」と語った。

 小学校などでネットに関する授業を行っているITジャーナリストの井上トシユキ氏は「今、学校では情報の授業に加えて、道徳授業の一環でSNSなどでの誹謗中傷について勉強している。学校でネットリテラシーを勉強していない人たちへの啓発も必要でしょう。影響力のある人が啓蒙キャンペーンをやったり、CM、電車の中づりで啓発活動をしてみるのはどうか」と提案した。

 総務省では、インターネット上で他人を誹謗中傷した発信者の特定のため、プロバイダーに情報開示を求める手続きの簡略化を議論している。これに井上氏は「情報開示請求し、実際に誹謗中傷をした人を突き止めて、罰を食らわせるという方法は効果がある」と指摘した。

 番組作りの再考とともに、SNSなどの正しい使い方を啓発する運動を行う必要があるだろう。