17日午前10時15分ごろ、大阪市北区曽根崎新地1丁目にある8階建ての堂島北ビルで、4階の「西梅田こころとからだのクリニック」から出火、一部が焼けた。クリニックにいた27人と6階にいた1人が搬送され、うち24人が死亡した。大阪府警は目撃情報などからクリニックを訪れた男が火を付けたとみて、殺人と現住建造物等放火の疑いで天満署に捜査本部を設置した。元東京消防庁消防官で防災アナリストの金子富夫氏が現場の状況を分析。ビル火災に対する心構えを説いた。

「火の勢いがすごくて、あっという間に広がった。煙がすごくて屋上からも出ていた」

 火災があったのは4階の心療内科・精神科が専門の「西梅田こころとからだのクリニック」。ホームページによると、発生時はうつ病などの精神疾患から職場復帰を支援する「リワークプログラム」が予定されており、室内には多くの人が集まっていたとみられる。

 府警によると出入り口付近の受付近くで「紙袋を持参した50~60代くらいの男が暖房器具付近で紙袋を置いて蹴り倒し、漏れ出た液体に引火した」との目撃情報があった。男は出火直前にエレベーターに乗ってクリニックを訪れたとみられる。捜査関係者によると、男は病院に搬送され、意識不明の重体だという。出火の約30分前に男の関係先の大阪市西淀川区にある住宅で火災があり、関連を調べている。 

 また、殺人と放火の疑いが持たれているのは、クリニックに通院していた男(61)とみられることが18日、捜査関係者への取材で分かった。重体となっている男の関係先から診察券が見つかった。

 遺体の多くは外傷がなく一酸化炭素中毒によるものだという。
 火は通報から30分もたたないうちに素早く消火された。にもかかわらず、多くの犠牲者が出てしまったのはなぜなのか。

 金子氏は「コロナ禍で職を失った人が診断書を求めにきていたとも聞く。こんなご時世だからこそ起きてしまったといえる。また、建物の細長い居室形状も惨事を招いた一因です。災害心理が働き、奥の方に避難する人に多くの人がつられたと思われる。消防活動は道路側からしか消火、救助ができず、階段からの進入も延焼中ならば難しいだろう」と指摘する。

 さらに「消火時間と燃えた範囲を考えると、これだけの被害はありえない」とした上で、「あくまで推測になるが、硫化水素系の液体に火をつければ爆発的に延焼するし、もし硫化水素であれば一呼吸で意識不明になり死に至ります」。

 防火体制はどうだったのだろうか。

 同ビルは1970年に完成。大阪市消防局によると、2019年3月の直近の消防の定期検査では防火上の不備は確認されていない。法令上のスプリンクラーの設置義務はなく、実際に設置もなかったが、周辺関係者は「ビルのテナントの人や電気設備の関係者が『オーナーに設備の要望をしても受けつけてくれず困ってる』とボヤいていたし、お金がかかることに積極的でない印象があった」と明かす。

 建物完成時の旧法の基準で合法であることから違法性はないが、金子氏は「法的には義務はないかもしれないが、建物には多くの人が集まる。古い建物であればあるほど、建物管理はより安全対策を進めなければならない。話が事実ならば、所有者の危機管理欠如も一因だ」と指摘する。

 01年の歌舞伎町ビル火災、08年の大阪個室ビデオ店放火事件、そして、19年の京都アニメーション放火殺人事件と、悲惨な火災事件はこれまで何度も発生している。残念ながら、今回も全国どこにでもあるようなビルで火災が起きてしまったが、どのような防災意識を持てばいいのか。

「多くの人が集まるような場所には、防災士の資格がある人や元消防隊員などをビル管理として数人置けば、『逃げろ』とか音頭も取れる。防火設備のないところや古いビルとか、法律的に手の付けられないところには、人的配備もしていかないと絶対に避けられない。消火器を1本増やすとか、家庭用の火災報知機をビルにつけるでもいい。安全設備にはどんなにお金がかかってもやるという姿勢がなければ繰り返し起こる」(同)

 悲劇を教訓にしなければならない。