NHK紅白歌合戦に19回の出場歴がある大物歌手・橋幸夫(78)が引退することが28日、本紙の取材で分かった。80歳になる2023年5月3日の誕生日に行うステージを最後にマイクを置くという。早ければ週明けにも都内で記者会見を行い、橋本人の口から正式に引退を発表する。

 芸能関係者によると、橋はここ数年、歌手活動を続けるべきか辞めるべきか、悩みに悩んでいたという。人を感動させるエンターテインメントの世界では、いくら感情豊かな表現力に優れていたとしても、「年齢による声の衰えはどうすることもできず、このままでは観客やファンを満足させるパフォーマンスは出せない」と引退を決断。東京五輪後に関係者らと協議を重ね、このタイミングで公表する決心を固めたようだ。

 若かりし頃、自衛隊員や警察官に憧れを抱いていた橋は、「自衛隊や警察官の方々もサラリーマンと同じように定年がある。でも歌手にはない。納得いくステージができなくなり、けじめをつける意味でも2年後の誕生日を最後に、もう歌うのはやめよう」と、自ら“80歳定年”を設定した。

 事前にグループ解散日を発表したアイドルらが、それまで“解散コンサート”と銘打って全国行脚するケースはよくある。解散と引退では、そのニュアンスは決して同じものとは言えないが、橋も2022年1月から23年5月の誕生日まで“引退コンサート”を行う予定だ。

 関係者の一部からは「これでは引退ビジネスじゃないか?」と批判の声が出ることも覚悟のうえで、「長い間、応援してくださったファンの前で最後の雄姿を見せたいそうだ」(前出芸能関係者)。

 橋は1960年にリリースしたデビュー曲「潮来笠」で第2回日本レコード大賞新人賞を受賞し、NHK紅白歌合戦にも初出場した。これを皮切りに、76年まで紅白には17回連続出場、通算19回出場した。

 62年には吉永小百合とのデュエット曲「いつでも夢を」で第4回日本レコード大賞を受賞し、4年後にも「霧氷」で史上初となる2度目の大賞を受賞した。当時は舟木一夫、西郷輝彦とともに「御三家」としてアイドル的人気を集めた。63年には石川県金沢市でのコンサート中に軍刀を持った男に襲撃されたこともある。この時の後遺症により、橋は今も左手小指を伸ばすことができない。

 71年に発売したテレビドラマの主題歌「子連れ狼」は広くお茶の間に浸透し、80年代に入ると当時、漫才ブームで大ブレークしていたザ・ぼんちのおさむが橋のものまねをする時のポーズ「あり~」が大受けし、橋はお笑いファンだけにとどまらず老若男女から脚光を浴びた。

 デビュー以来、500以上のオリジナル曲をリリースしてきた橋は、今年12月には、ついにラストシングルとなる引退曲(タイトル未定)をリリースする。テーマは警察官や機動隊員への応援歌になるものと思われる。

 波瀾万丈の歌手人生に終止符を打つことを決めたが、人生はまだまだ。80歳からの新しい人生に何を飾るのか、橋幸夫だから楽しみである。

☆はし・ゆきお 1943年5月3日生まれ。東京都出身。中学2年から作曲家の故遠藤実氏に師事。高校1年でビクターエンタテインメントのオーディションに合格し、60年「潮来笠」でデビュー。同曲の爆発的ヒットで日本レコード大賞新人賞を受賞。日本レコード大賞は、62年に吉永小百合とのデュエット曲「いつでも夢を」、66年「霧氷」で2度受賞している。歌手や俳優として活動するかたわら、モンゴル親善大使や介助犬サポート大使などを務める。老若男女問わず幅広い世代から支持されている。