前回とり上げた「ドルフィンブルー」(2007年)は、沖縄の本部半島の突端にある「美ら海水族館」が舞台だったが、その同じ場所で3年前の04年に「風音」という映画を製作していた。地元の今帰仁村出身で芥川賞作家の目取真俊さんの原作・脚本による劇映画だ。
目取真さんの小説が好きで以前から全ての作品を読んでいて、ガルシア・マルケスに代表されるラテンアメリカ文学のような濃密な時空を持った物語と、表現の力強さに魅了されていた。目取真さんの小説世界を、沖縄の風土の中で映画化できないかと考えた。
映画のタイトル「風音(ふうおん)」とは風葬場の崖に置かれた、沖縄戦で果てた特攻隊の青年の頭蓋骨「泣き御頭(なきうんかみ)」が立てる風の音のことだ。目取真さんが一貫してテーマにしてきた、沖縄戦の記憶と沖縄の差別された現状を交錯させて描いた作品になっている。
主演の海人の老人役に選んだのは、当時地元の区長だった上間宗男さん。ロケハンで訪ねた際に、上間さんが地元にある風葬場を案内してくれたのだが、東陽一監督の目に止まり、重要なロケ場所も主人公も同時に決まるという幸運に恵まれた。撮影まで2か月しかないというぎりぎりのタイミングだった。
“映画の神様が微笑む”瞬間があって、映画がうまくいく時というのはこのようにチャンスが向こうからやってくることがあるのだ。上間さん以外にも“耳切おじい”という異形の老人役や子供達も、沖縄でのオーディションで選んだ。
他に、つみきみほさん、光石研さん、細山田隆人さん、そして加藤治子さんに出演してもらった。加藤さんはあこがれの女優だったので、この作品でご一緒できたのがとても嬉しかった。ご自分の中に戦争の記憶、反戦の想いをきちんと抱えていて、凛々しくも可愛らしい女性であり、女優だった。
この作品は製作費が集まらず、結果私の会社「シグロ」の自主製作になった。製作費が足りない中で、スタッフや関係者には随分迷惑をかけた現場になったことを白状しておかなければならない。それでも、これまで私が製作してきた映画の中でも好きな作品のひとつだ。
「風音」は、この年のモントリオール世界映画祭で、準グランプリにあたるイノベーション賞を受賞した。受賞のトロフィーは、撮影現場だった上間さんの村に寄贈し、今も沖縄で展示されている。
☆やまがみ・てつじろう 1954年、熊本県生まれ。86年「シグロ」を設立、代表就任。以来80本以上の劇映画、ドキュメンタリー映画を製作・配給。「絵の中のぼくの村」(96年)でベルリン国際映画祭銀熊賞受賞をはじめ、国内外の映画賞を多数受賞。主な作品に石原さとみ映画デビュー作「わたしのグランパ」(2003年)、「老人と海」「ハッシュ!」「松ヶ根乱射事件」「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」「沖縄 うりずんの雨」「だれかの木琴」「明日をへぐる」など。現在「親密な他人」の公開を控えている。












