【日航機墜落30年】坂本九さん長女が明かす鮮明な記憶と教訓

2015年08月13日 06時00分

事故、そして亡き父のことを語る大島花子。囲み写真は坂本九さんの告別式で遺影を持つ当時小6の大島

「感情のスイッチをオフにしました」――。30年前の夏、1985年8月12日に日本航空ジャンボ機が「御巣鷹の尾根」(群馬県上野村)に墜落し、520人の命が奪われた。その中に「上を向いて歩こう」の世界的大ヒットで知られる歌手・坂本九さんがいた。当時43歳。このとき小学6年生だったのが、九さんの愛娘の長女・大島花子(41)だ。父を亡くした少女・花子は、苦しみから逃れるため“感情のスイッチ”を切ったという。30年が経過した今、突然襲った悲劇の日の思いを本紙に語った。

 この時期が来ると、決まって30年前の墜落事故関連の映像がテレビから流れてくる。

「見たくはないですよ、やっぱり。感情のスイッチをオフにする作業というか、気を紛らわせながらじゃないと見れないですよね」

 30年前、小学6年生11歳の少女を襲った「父の墜落死」という突然の悲劇によって負った心の傷は、今もって癒えてはいないようだ。

「大阪に行くとは聞いていたので、レーダーから消えたという速報を見て、何となく“これじゃないのかな”って」

 父の安否を確認すべく群馬県に行った。

「1週間くらい、知人の家に預けられていたんです。最悪の事態を子供なりに、覚悟はしていたのですが、週刊誌だったかな。『坂本九死す』って書いてあったのを見たんですよ。母親から父が亡くなったと聞いたわけでもなく、気づいたらお葬式。事実として見たのが週刊誌の言葉だったんですよね」

 あまりに衝撃的な事故は、到底受け入れられるものではなかった。

「私の中では海外に行っていて早く帰ってこないかな、くらいな感じで思っていないと、生きていけないというか、心のバランスがおかしくなってしまう。“感情のスイッチ”をオフにしないとやっていけないという状況でした」

 悲しすぎる現実を直視することはできなかったという。

 母親は女優の柏木由紀子(67)。事故後も2人の娘には気丈に振る舞っていたという。

「パパがいた時と同じような環境を作ってあげようとしていた気がしますね。運動会でも、当時、父が大きいビデオカメラで撮ってくれてたんですよ。父が亡くなった後の運動会で母がそれを持って撮ってくれたのが忘れられない。本当に仲の良い夫婦だったので…寂しさは募っていくだろうし、さすがに想像はしきれないですけどね」

 そんな大島にとって今でも脳裏に焼きついて離れない光景がある。それは事故前日のことだ。

「父がたまたま家にいたんですよ。1日一緒だったかは記憶にないんですが、普通に暑くて、甲子園をやってて、母がカキ氷を作ってくれて…なぜか炎天下の中、庭掃除をしている」

 父の思い出はたくさんあるが、大島にとってはこの光景が最も「キラキラ輝いている」ものだという。一見すれば何げない日常だが、実はこの思い出が大島を歌手への道へ向かわせた。

「子供を叱っているかもしれない、こうやってお話ししているかもしれない、そういう何でもない日常がすごく大切なんじゃないか、いま生きていることがどれだけ輝いていることなのか。これを伝えるために、歌っているんです」

 現在は定期的にライブ活動を行い、昨年末にはファーストアルバム「柿の木坂」をリリース。その中に「親父」という曲が収録されている。生前の坂本さんが、亡くなった厳しい父親を思いながら作詞作曲した曲だ。

「この曲は生前、歌っているのを聞いて、当時、衝撃を受けて涙が出るほど感動したんです。5~6年前から私も歌うようになったんです。いま父とは会話はできないですが、父の思いを感じながら歌っています」

 29日には東京・神楽坂の音楽の友ホールでライブを行う。

「アルバム曲も歌いますが、『上を向いて歩こう』を手話で歌ったりしているんです。父がやっていたことなんですけど、歌い継いでいこうかと思っています」

 父親と同じ道を歩いている大島。

「尊敬するアーティストでもあり、道しるべでもありますが、坂本九になるのではなく、自分らしい歌を歌いたいと思っています。でも『うまい』と言われるよりも『いいよね』って言われるのが理想かな」

 この「いいよね」は、生前、坂本さんが話していた言葉だという。

「プロの父がテレビとか見てて、『この人いいよね』って言うんです。うまくないのになあって思う人でもそう。温かい感じがあるとか、何かあるんだと思うんですが」

 今となっては確かめようのない坂本さんの「いいよね」だが、大島は「日々の日常が大切」というメッセージを抱え歌い続ける。
 大島は現在、家族などを失って悲しむ人を支えるグリーフケアという活動を始めている。

「深い悲しみを負ったときに、体や精神の変化をケアする活動があるんです。震災のときも同じような人がいて、何とかしてあげたいなと思い興味を持ち始めました。いま思うと、そういう心のケアが、自分自身にも必要な状況だったのかもしれないなと…」

 講座を受けたり、当事者としてカウンセリングを受け、データとして提供するなどの手伝いもしているという。

☆おおしま・はなこ=1973年10月7日生まれ。東京都出身。父は歌手の坂本九さん、母は女優の柏木由紀子、妹は元宝塚歌劇団で女優の舞坂ゆき子。92年にミュージカル「大草原の小さな家」で初舞台。97年から作詞作曲活動を始め、2003年に父の「見上げてごらん夜の星を」でメジャーデビューした。06年に結婚、09年に男児を出産した。