全国の新型コロナウイルスの新規感染者数が29日、初めて1万人を超え、過去最多となった。インド由来で感染力の強いデルタ株による第5波の襲来にコロナ禍の“予言の書”として話題になった小説「首都感染」の著者で、かねて東京でのワクチン集中接種を訴えていた作家の高嶋哲夫氏(72)は「本をしっかり断っておけば、感染者はおそらく何分の1、うまくいけば10分の1くらいだった」と指摘。政府や専門家の“無策”を批判した。
連日、熱戦が繰り広げられている東京五輪の裏で、東京では3865人の新規陽性者が確認された。神奈川は1164人、大阪は932人を記録するなど感染者が増加し、全国合計は1万693人となった。
デルタ株の影響で感染が拡大し続けていることを受け、政府は埼玉、千葉、神奈川の首都圏3県と大阪府に対し、新型コロナウイルス緊急事態宣言を発令する方針を固めた。すでに宣言中の東京、沖縄も合わせて延長する。期間は8月31日まで。
高嶋氏は第4波が来る前の3月、国が高齢者用として確保したワクチン3600万人分を感染拡大の中心となる首都圏や大阪などに集中し、年齢に関係なく接種することが最も効果的だと本紙で提言していた。
全国的にコロナがまん延した現状について「政治家の選挙対策というか、地方も平等になんてことで有効性を犠牲にしたということでしょう。首都圏や大阪の希望するすべての人に集中していれば、全員ではなくとも多くの人が免疫を持っていた。東京発、大阪発で地方に広がるのだから、本をしっかり断っておけば、今に比べれば感染者はおそらく何分の1、うまくいけば10分の1くらいになってたでしょう」と指摘する。
今回の第5波では65歳以上の高齢者の70%が2回目の接種を終えたこともあってか、第4波に比べると死者や重症者数の急増、重症病床の急激な逼迫は比較的抑えられているようにみえるが、「ワクチンをした人がどれだけ感染しているのかというデータがよく分からないが、製薬会社もデルタ株にも95%効くと言っている。ただ、高齢者に最初にワクチンを打ったから重症化しなくてよかったというのは違う。そもそも、地方の高齢者は(不特定多数の人が集まる)人混みの中に行く機会なんてほとんどないから、かからないし、東京が少なくなれば地方全体がもっと少なくなっていたはず」と当然の結果だとみている。
度重なる緊急事態宣言で国民は疲弊。宣言下の東京や沖縄で感染拡大に歯止めがかからない現状を考えれば、宣言の範囲を広げることにどれだけ効果が見込まれるかも未知数だ。
高嶋氏も「すでに家庭や職場に入り込んでいて、『飲食店でお酒はダメ』と言っているのも感染の場所が違ってきている感じがする。ここまできたら移動を避けるしかないのかもしれないが、例えば人が集中する東京駅や大阪駅で、働いていて感染リスクが高い人に残りのワクチン全部を使い切るくらいのことをするしかない」と話す。
高嶋氏は当初、新型コロナの感染力などを考えると、昨年中には終息すると予測していた。だが、気が付けば1年半、感染の波は5回も押し寄せている。
「リーダーの責任もあるが、専門家にあまりにも知恵がない。専門家だったら、ワクチンをこう使えば効率が上がるとか、最初はいろんな手があったのに。『密を避けて移動しないで』はそうなんだけど、それを超える何かを考えないと。リーダーはワクチンのことなんて分からないのですから、専門家が正しい方向を示して、政治家が国民が納得するような方法で説得していくということができなかった。誰もが納得のいく大演説を打てれば、次の選挙も間違いないんですけどね」と迷走を続ける政治と専門家を皮肉った。
☆たかしま・てつお 1949年7月7日生まれ。岡山県玉野市出身。慶應義塾大学工学部卒。同大学院修士課程修了。日本原子力研究所研究員を経て、米カリフォルニア大ロサンゼルス校に留学。81年に帰国し、学習塾を経営するかたわら執筆業を開始。「メルトダウン」(94年)で第1回小説現代推理新人賞、「イントゥルーダー」(99年)で第16回サントリーミステリー大賞など、受賞多数。2010年発表の「首都感染」がコロナ禍の現状と酷似しているとして〝予言の書〟と話題になった。












