日本企業約80社がサイバー攻撃の標的となり、うち8社が情報漏えいを公表したと報じられた問題で、攻撃の一部に中国製の侵入テスト用AIツール「ARTEX(アルテックス)」が使用されていたことが20日までに分かった。GMOインターネットグループ傘下のセキュリティー会社が外部機関と連携して調査し、日本企業を中心に狙ったAI使用の攻撃設備を新たに6台特定した。

 AIエージェントとは、人間が目的を指示するだけで、自ら手順を考え、判断し、必要な作業を自律的に進めるAIのこと。従来の対話型AIが人間の質問に答えることを中心とするのに対し、AIエージェントは外部のツール(他社のAI、検索エンジン、プログラム作成などの専用ソフト、メール送信などの外部サービス)を使い、複数の作業を実行する。

 アルテックスは、企業のシステムの弱点を発見するためのAIエージェント。本来はサイバー攻撃を防ぐ目的で開発されたが、攻撃者が悪用すれば、システムの弱点を自動的に探し、不正侵入を試みることもできる。

 アルテックスがサイバー攻撃に悪用された背景には、企業を守るために開発された高性能なAIが、攻撃者にとっても極めて便利な道具だったことにある。これまでなら高度な技術を持つハッカーが何時間もかけて行っていた作業を、AIが自律的に実行できるようになったのだ。

 しかも、アルテックスは、プログラムの設計図に当たるソースコードが公開された「オープンソース」の侵入テスト自動化ツール。攻撃者も自由に入手できる状態だった。日本企業への攻撃者が中国語を使用する人物なのかは不明だが、アルテックスがサイバー攻撃に便利なツールだったことは間違いなさそうだ。

 従来のように高度な技術と知識を備えたハッカー集団を必要とせず、少人数でも大規模な攻撃を仕掛けられる可能性がある。ハッカーがAIに面倒な作業を丸投げできる時代になったというわけだ。

 実際、韓国では9月下旬から10月初めにかけて金融機関を狙ったサイバー攻撃が発生。米セキュリティー企業「クラウドストライク」の調査によると、攻撃者は中国語を使用する人物とみられ、アルテックスや米アンソロピックのAI「クロード」のプログラム開発支援ツールを利用していた。

 ところが、この攻撃者が思わぬヘマを犯していた。銀行へのサイバー攻撃に利用したAIに、自分の履歴書まで作成させていたのだ。その記録から、中国の大学で学び、広東省に住む26歳の中国人である可能性が浮上。ただし、入力された生年月日などに矛盾があり、身元の特定には至っていない。

 さらに、盗んだ個人情報をどうやってカネに換えるかもAIに相談。通信アプリ「テレグラム」にある、韓国の個人情報売買グループを紹介するように求めていたという。

 企業を守るはずのAIが攻撃に悪用され、攻撃者は同じAIに自分の身元の手掛かりまで残してしまった。攻撃者も被害者もAIに振り回されているのかもしれない。