大学時代のTAJIRIは、福岡・太宰府市の自宅近くにあった公園へ夜な夜な足を運んでいた。そこで挑戦していたのが、憧れの浅井嘉浩(ウルティモ・ドラゴン)の代名詞だったラ・ケブラーダだ。石でできた台の上に立ち、何度も飛ぼうとした。「後ろに宙返りすること自体はできたんです。でも、高いところから後ろへ飛ぶラ・ケブラーダは怖くて、どうしてもできなかった」。飛ぶ勇気が出ず、1時間近く台の上にいたこともあったという。結局、大学時代に一度も成功することはなかった。

 ラ・ケブラーダへの挑戦とともに、ジャングルジムを使った懸垂も繰り返した。10回を10セット。できる時には欠かさず取り組んだ。懸垂をしながら、いつかプロレスラーになった自分が再びこの公園を訪れ、ここで練習していたことを振り返る姿まで想像していたという。まだプロレスラーになる前から、そんな未来の自分を思い描きながら体を鍛えていた。

 それから14年後、ドキュメンタリー番組の撮影で再びその公園を訪れた。かつて使っていたジャングルジムにつかまり、カメラに向かって当時のことを話していると、大学時代に思い描いていたことを思い出した。「思い出した! オレ、ここで懸垂してたことを語る日がくるんだ! とイメージしながらやってたんですよ!」。大学生だった頃に頭の中で描いていた場面に、14年後の自分が立っていた。

 ただ、TAJIRIはこの出来事を、自らの成功を誇るために振り返っているわけではない。「だからあなたも頑張れば夢がかなう、ということを言いたいわけじゃないんです。ただ、人生には、そういうことが起こりえる」。大学時代には最後までできなかったラ・ケブラーダ。その傍らで続けていた懸垂と、そこで思い描いていた自分の姿。14年という時を経て、それは現実のものになった。

ブラック・ウォリアー㊦にケブラーダを見舞うウルティモ・ドラゴン(2006年4月)
ブラック・ウォリアー㊦にケブラーダを見舞うウルティモ・ドラゴン(2006年4月)