元アイドルから弁護士へ――。異色の経歴の持ち主である弁護士・平松まゆきさん(49)は、中学生でオーディションを受けて歌手デビュー。その後、偏差値30から大学受験に挑み、法科大学院を経て司法試験に合格し、法曹の世界に飛び込んだ。現在は大分を拠点に活動し、女性からの相談が多い現場で依頼者に寄り添い続けている。その歩みと現在、そして今後の展望を聞いた。

1989年、アイドルとして活躍していた平松まゆき弁護士(本人提供)
1989年、アイドルとして活躍していた平松まゆき弁護士(本人提供)

 ――12歳でオーディションを受けたきっかけと当時の心境は

 平松 当時は「ザ・ベストテン」や「トップテン」の歌番組に夢中で、東京に行けたらいいなという気持ちで受けました。自分がグランプリを取るなんて思っていなくて、芸能界に入りたいというよりは、軽い気持ちでした。両親には内緒で、姉に履歴書の書き方を教えてもらって応募しました。福岡にも行ったことがないような状態だったので、福岡大会に行けただけでも楽しかったです。

 ――上京までの経緯とデビュー後の生活は

 平松 中学1年でグランプリを取りましたが、親の許可が出ず、中3の夏まで1年半かかりました。その間ずっと事務所の方が説得してくれて、最終的に上京することになりました。当時はCDを手売りする時代で、朝5時の飛行機で北海道に行ってラジオ局を回り、昼に広島に飛んで、夜に東京に戻ってまたラジオ局に行くという生活でした。ほぼ毎日移動しているような状態で、高校にはほとんど通えず、それは大きな葛藤でしたが、とにかく目の前の仕事をこなすことで精一杯でした。

 ――大学受験に挑戦した理由は

 平松 同級生たちが大学や専門学校に進んでいく中で、20歳になった時に「自分は何も勉強していない。このままでいいのか」という思いが強くなっていきました。事務所に相談して受験に挑戦し、立教大学に進学しました。5か月しか時間がなかったので、1日12時間くらい勉強しました。もともと偏差値30からのスタートでしたが、科目を絞って徹底的にやりました。大学院でも文学を学び、大学生活を送る中で芸能界からは自然と遠ざかっていきました。

 ――社会人生活は

 平松 大学院を修了した後はテレマーケティングの会社に3年、外資系の製薬会社に1年勤務しました。仕事も充実していましたし、海外旅行に行ったりと、いわゆる普通の社会人生活を送っていました。ただ、30歳を迎えた頃に「このままでいいのか」と感じるようになって、これまでの自分の人生を振り返った時に、本気で何かに向き合ってきたのかという思いが強くなりました。

 ――弁護士を目指したきっかけは

 平松 名張毒ぶどう酒事件のドキュメンタリーを見たことです。被告人のために奔走する弁護団の姿を見て、「人の人生に本気で向き合う仕事があるんだ」と衝撃を受けました。それまでの自分は楽しいことを選んできただけで、本気で誰かのために何かをしたことがなかった。その差を突きつけられたような感覚でした。

 ――法科大学院での日々と環境は

 平松 33歳の時に名古屋大学法科大学院に入りましたが、仕事をしながらは無理でした。勉強中心の生活になって、ノイローゼ気味になって重度のうつ病にもなり、医者から「今すぐ勉強はやめるべきだ」と言われたこともありました。

 ――司法試験合格までの苦労は

 平松 3度目の合格発表の時は、生きた心地がしなかったです。ロシアンルーレットのように「カチッ」と回すような感覚で結果を見るのが本当に怖かったです。大学受験の時のように「やったー!」とか「よっしゃー!」みたいな感覚は全くありませんでした。合否を確認するためにパソコンの画面をスクロールして、自分の番号を見つけた瞬間、「あった…」と、言葉にならないように声が漏れました。目の前が暗くなっていって失神しそうになり、座っていたイスから落ちました。倒れた衝撃で何とか失神せずに済んだような感覚でした。うれしいというよりは、生かされたという気持ちの方が強かったです。

 ――現在の仕事と依頼者との向き合い方は

 平松 依頼者の9割が女性で、離婚やセクハラ、DVなどの相談が多いです。すでに深く傷ついている方が多いので、これ以上傷つけないことを一番大切にしています。まずは安心して話してもらえるように、言葉の選び方にはすごく気をつけています。

 ――やりがいと課題、社会的な取り組みについて

 平松 終わった後に「依頼してよかった」と言っていただける時が一番やりがいを感じます。一方で、司法制度には課題も感じており、法科大学院制度も含めて見直しが必要だと思っています。ハンセン病の問題は裁判で全て解決するものではなく、今も差別や偏見が残っているので、その解消に向けた活動を続けています。その一つが菊池事件の再審請求で、現在も無報酬で関わっています。弁護士を目指した原点に関わる部分だと思っています。

 ――プライベートと今後の目標は

 平松 音楽は好きで、年に1回はライブに出ています。マライア・キャリーに憧れていました。気晴らしは海外旅行で、時間があれば行きたいと思っています。大分では関アジや関サバがおすすめです。今後はアーリーリタイアして新しいことに挑戦したいという思いがあります。弁護士の仕事で感じた課題から、刑事事件で残されたペットを支える仕組みづくりにも関心があります。人生は一度きりなので、挑戦を続けていきたいと思っています。

平松まゆき弁護士は大分市内に事務所を構える
平松まゆき弁護士は大分市内に事務所を構える