【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】新型コロナウイルスのワクチン接種率が東南アジアで最低レベルなのはタイだ。軍事クーデターで大混乱の隣国ミャンマーより低い。

 日本同様、ワクチン調達が進んでない。現在あるのは中国のシノバックと英アストラゼネカで、今後はロシアと米ファイザーからも調達を進める方針だという。ただ地元民からは「中国製だったら打ちたくない。ファイザーがいい」など、えり好みの声も多い。

 そんななか感染が深刻な首都バンコクなどでは、これまで禁止だった飲食店内での食事が今月17日から条件付きでOKに。大手飲食店チェーンの中には、ワクチン接種の証明書を持参するなどした客に、ガパオライス、たこ焼きなどの1品やドリンク1杯を無料提供する店が現れた。また大手バス会社では、接種証明書を提示すると1台20席のVIP長距離バス運賃が5%引きに。

 北部チェンマイ県の山間部メーチャム郡では、ワクチン接種者の中から抽選で1万バーツ(約3万5000円)相当の子牛が当たるキャンペーンを20日から始めた。牛の飼育が盛んな土地ならではの発想で、村長いわく「村人たちが少しでもリラックスしてワクチン接種してもらえれば」。タイでも副反応を恐れて接種をためらう人がいるため、村長は「少しでも接種の後押しになれば」と話している。

 子牛の抽選会は週1回で年末までやる予定。これを発表したところ、すぐにワクチン接種希望者の登録が殺到した。同郡は人口6万人足らずで、すでに高齢者や基礎疾患者を中心に4500人が登録し、接種を待っている。この数はさらに増える見込みで、大規模接種が始まる6月からは週2000人の接種が目標という。

 また、「ワクチン接種しました」と書かれたファンシーなパネルを用意する病院や接種会場が、全国的に急増している。周りに接種完了をアピールしたい人の〝SNS映え〟を狙ったものだ。

 昨年来タイはコロナを抑え込み、1日の感染者は1桁か数十人、死者ゼロという日が長く続いた。ところが先月下旬から英国型やインド型の変異株が流入し、刑務所や工場での大規模クラスター発生もあり、感染者、死者が激増。歓楽街からの市中感染も広がりつつある。

「金もかかるし、具合が悪くても病院に行かない、行けない人は多い」という地元の声もある。また、そもそも感染者数は発表通りなのか、という疑いはぬぐえない。地元民も「バンコクはともかく、医療体制の整ってない地方の感染実態は把握し切れていないのでは。陸路で国境を接する地方には、表向き国境を封鎖しても抜け道はいくらでもあるし…」と指摘している。(室橋裕和)

 ☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「バンコクドリーム『Gダイアリー』編集部青春記」(イースト・プレス)。