今からちょうど50年前の1976年、米国のブラックミュージックはディスコ全盛期を迎えると同時に、60年代末から起きたニュー・ソウル・ムーブメントが熟成した年だった。今回の「音楽タイムマシン」は50年前に音楽シーンを沸かせたソウルの歴史的名盤5枚をお届けします。

【スティーヴィー・ワンダー/キー・オブ・ライフ】

スティーヴィー・ワンダー「キー・オブ・ライフ」
スティーヴィー・ワンダー「キー・オブ・ライフ」

 あらゆる時代とジャンルを超えて20世紀の音楽史上に輝く永遠のマスターピースである。2枚組+EPという圧巻のボリュームながら捨て曲は1曲もない。14週全米1位。今なお世界中で多くの人に聴かれ、様々なアーティストがサンプリングの宝庫としている大傑作だ。

 70年代に入ってからのスティーヴィーは超人的な才能を発揮して「トーキング・ブック」(72年)、「インナーヴィジョンズ」(73年)、「ファースト・フィナーレ」(74年)と大傑作を発表し続けた。その集大成が本作である。

 とにかく全曲においてメロディーと演奏とアレンジが神がかっており、社会的メッセージから愛の歌まであらゆるソウルの要素が詰め込まれている。A①「ある愛の伝説」の桃源郷への誘いのような美しさで幕を開けるや「神とお話し」、「ビレッジ・ゲットー・ランド」、「負傷」、そして名曲「愛するデューク」へと続く。B面もファンキーな「回想」から、今はサンプリングの基本とされている「楽園の彼方へ」、切なくも美しい「今はひとりぼっち」と慈愛に満ちた「出逢いと別れの間に」でディスク1は終了する。

 これだけでも大傑作なのだが、ディスク2では有名な「可愛いアイシャ」で幕を開け、孤独感を歌った「涙のかたすみで」からハードな社会的ナンバー「ブラック・マン」、ラテン調の「歌を唄えば」、そして8分の大作「アナザー・スター」で締めくくられる。ボーナスEPも追加感は全然なく「土星」からゆったりとしたインスト「イージー・ゴーイン・イヴニング」で大作は幕を閉じる。

 スティーヴィーが自らの持てる才能を一気に放出した感があり、全編105分4秒を聴き終えた後は、幸福感と充実感しか残らない。神がかっていたのではない。この時代のスティーヴィーは本当に「神」だったのである。

【マーヴィン・ゲイ/アイ・ウォント・ユー】

マーヴィン・ゲイ「アイ・ウォント・ユー」
マーヴィン・ゲイ「アイ・ウォント・ユー」

 モータウンの看板アーティストだったマーヴィンは、1971年に名盤「ホワッツ・ゴーイン・オン」をリリースする。従来のモータウンにはなかったベトナム戦争や公害、貧困、エコロジーといった社会的問題を取り上げたコンセプトアルバムで、従来のソウルの常識を根底から覆してしまった。

 ほぼ同時期にニュー・ソウル・ムーブメントが本格的に始まるや、マーヴィンは一転して個人的な恋愛を歌った「レッツ・ゲット・イット・オン」(73年)でまた評価を高める。続いてリリースされたのが本作であり、マーヴィンは徹底して個人的な愛について歌っており優れたナンバーが並んでいる。

 名プロデューサーでシンガーのリオン・ウェアから譲り受けた共同作品で、優れたバラードであるA①の表題曲からメロウな展開となり、官能的な「オール・マイ・ラヴ」、ささやくように愛を歌う「シンス・アイ・ハッド・ユー」、ゆったりとしたマーヴィン節が冴え渡る名曲「アフター・ザ・ダンス」でアルバムは幕を閉じる。

 各曲のところどころでバックに(気恥ずかしいが)女性のあえぎ声が入るのも特徴。美しいストリングスとパーカッションが鳴り続け、ほぼコンセプトアルバムのように愛や性についての穏やかでセクシーなナンバーが続く。前2作があまりに評価が高かったため、見逃されがちだが掛け値なしの名盤である。全米4位。

【アース・ウィンド&ファイアー/魂】

アース・ウィンド&ファイア「魂」
アース・ウィンド&ファイア「魂」

 1970年代にファンクシーンに革命を起こし、後のディスコブームでも主役となったグループの代表的アルバム。前年の「暗黒への挑戦」で初の全米1位を獲得した勢いのままリリースされた。とにかくこの時期のクリエーターとしてのモーリス・ホワイトの才能、フィリップ・ベイリーのファルセット・ボイス、そしてバンドの超人的な演奏力は奇跡的ですらあった。

 アルバムはスリリングな「ゲッタウェイ」で始まるや、一転してミドルナンバーの「心模様」、「イマジネイション」「精霊の詩」と優れたメロディーとハーモニーを誇るナンバーが続いてA面は幕を閉じる。

 B面はファンキーな「サタデイ・ナイト」で幕を開け、壮大なバラード「アース・ウインド&ファイアー」、インストのファンクナンバー「出発」から、ドラマチックな展開の「永遠の炎」で余韻を残してアルバムは終わる。まだディスコ色はなく、バンドがファンクの最先端を走っていた時代の傑作で、アースはこの後も快進撃を続ける。全米2位。

【アイズレー・ブラザーズ/ハーベスト・フォー・ザ・ワールド】

アイズレー・ブラザーズ「ハーベスト・フォー・ザ・ワールド」
アイズレー・ブラザーズ「ハーベスト・フォー・ザ・ワールド」

 1950年代からボーカル・グループとして活躍してきたアイズレーは、70年代に入ると6人編成のファンクバンドに転身。ほぼ毎年、強烈かつ優れたアルバムを精力的に出し続けた。

 ファンクに徹した同作は「ギヴィン・イット・バック」(71年)、「ブラザー、ブラザー、ブラザー」(72年)、「3+3」(73年)、「ザ・ヒート・イズ・オン」(75年)などの傑作に続いてリリースされた。

 アイズレーはジャンルを問わず良質な曲を量産したが、このアルバムもロック、ポップス、ソウルを融合させて見事な作品に仕上げている。

 A①の静かなプレリュードから表題曲への流れはドラマチックで、アコギの音が美しい「ハーベスト・フォー・ザ・ワールド」は、社会的なメッセージソングが穏やかなメロディーに乗って歌われ、続く「ピープル・オブ・トゥデイ」では、エフェクターの効いたギターが活躍してグイグイとテンポを上げていく。A④「フー・ラブズ・ユー・ベター」はギターのメロウな音色が素晴らしいアイズレーの典型的なナンバーで、多くのミュージシャンにカバーされた。

 B①「(アット・ユア・ベスト)ユー・アー・ラブ」はまさに彼らの真骨頂ともいえる珠玉の名バラード。94年にアリーヤがカバーして全米6位のヒットを記録している。続く「レット・ミー・ダウン・イージー」もシンセの音色が美しく切ないバラードで、この流れはアイズレーしか成し得ない展開だ。ラストはミドルテンポながらグルーヴ感満載のゴリゴリのファンクナンバー「ユー・スティル・フィール・ザ・ニード」で締めくくられる。とにかくアイズレーが無敵だった時代の名盤。バンドは80年代を過ぎても多くの名盤を輩出した。全米9位。

【ダリル・ホール&ジョン・オーツ/ロックン・ソウル】

ダリル・ホール&ジョン・オーツ「ロックン・ソウル」
ダリル・ホール&ジョン・オーツ「ロックン・ソウル」

 ここで変化球的1枚を入れたい。1970年代からメガヒットを連発したスーパーデュオの出世作である。見事なブルー・アイド・ソウルを展開しており、彼らの初期を代表する名盤だ。

 とにかく一貫してソウルミュージックへの愛情と敬意に満ちている。若き日の2人はソウルのことしか頭になく、本当に黒人になりたかったのではないかと思わせるほど、楽曲にかける情熱とソウルへの愛情が伝わる。

 同作はジョン・オーツ作の「バック・トゥゲザー・アゲイン」で幕を開ける。サイドマン的見方をされることが多いが、ジョンも優れたミュージシャンでソロでも傑作を出している。ブラックフィーリングにあふれたギターリフにサックスをからめた極上のファンクナンバーに仕上がっている。

 続いて初の全米1位に輝いた名曲「リッチ・ガール」、ダリルのブルース感覚にあふれたA④「ドゥ・ホワット・ユー・ウォント、ビー・ホワット・ユー・アー」へと続き、フィラデルフィアソウル感覚満載の展開になっている。B②「ルーム・トゥ・ブリーズ」ではロック的アプローチを見せ、コーラスが印象的なロック・バラード「フォーリング」で幕を閉じる。B面はある意味、ロックとソウルを強引に融合させた実験的なアルバムであったが、万人に愛されるポップさを備えていた。

 2人は80年代に「キッス・オン・マイ・リスト」「プライベート・アイズ」「マンイーター」「アウト・オブ・タッチ」などのメガヒットを連発するが、いわゆる「産業ロック」のにおいは感じさせなかった。根本でソウルへの深い敬意と愛情を失わなかったからだろう。すべては「ロックン・ソウル」から始まっていたのだ。全米13位。

【1976年のソウル、その他の名盤10選(順不同)】

・ダイアナ・ロス/愛の流れに

・ザ・クルセイダーズ/ゾーズ・サザン・ナイツ

・KC&ザ・サンシャイン・バンド/シェイク・ユア・ブーティー

・ジェームス・ブラウン/ゲット・アップ・オファ・ザット・シング

・ザ・ミラクルズ/パワー・オブ・ミュージック

・リオン・ウェア/ミュージカル・マッサージ

・ドナ・サマー/ア・ラブ・トリロジー

・キャンディ・ステイトン/ヤング・ハーツ・ラン・フリー

・ザ・ジャクソンズ/ザ・ジャクソンズ

・ボズ・スキャッグス/シルク・ディグリーズ