五輪に殺される――。何とも物騒な〝過激ワード〟が聖地に響き渡った。五輪中止を訴える反五輪団体が、東京五輪の陸上テスト大会(9日)が行われた国立競技場(東京・新宿区)の周囲に集結。約100人によるデモ行進が行われ、緊迫ムードに包まれた。さらに、水面下では公安警察が反五輪運動に対して〝けん制〟を入れていたことも発覚。開幕まで残り3か月を切る中、とても祭典とは思えない雰囲気が漂っている。

 午後5時、東京五輪中止を求める「反五輪の会」は日本オリンピック委員会(JOC)や五輪競技団体が入る「ジャパン・スポーツ・オリンピック・スクエア」の前に集結。デモの申請を受けて出動した四谷署の警察官が厳戒態勢を敷く中、午後6時から競技場の周囲で大規模なデモ行進が始まった。

「Olympic kill the poor(五輪は貧乏人を殺す)」と書かれた横断幕が掲げられ、拡声器によって「五輪より命を守れ!」「バッハは極悪ぼったくり」「五輪に殺される」などと過激なワードが飛び交った。

 今大会には男子100メートルで日本人初の9秒台をマークした桐生祥秀(25=日本生命)らトップ選手も出場。同時間帯にはテレビの生中継があり、無観客の会場内にはデモ隊の過激ワードがかすかに響き渡った。物々しいデモ行進は約1時間ほど続き、競技場内の壁の隙間からデモを見守った女子アスリートたちは複雑な表情を浮かべた。

 その一方で、デモに参加した40代女性は「世論の7、8割がもう五輪は無理だと思っている。誰のため、何のためにやるのか? おカネや政治が理由なら本当にやめてほしい」と切実に訴えた。

 さらに本紙の取材で五輪中止を求める活動に対して、公安警察が水面下で〝暗躍〟していたことが発覚した。反五輪活動を行う1人の女性に、捜査差押許可状が出されたのは昨年2月。抗議活動とは直接関係のない「免状等不実記載」という名目で強制家宅捜査が入り、女性はパソコンやスマホなどを押収されたという。

 女性の弁護士は「デモ抗議に違法性は全くない。公安は反五輪活動の実態を解明する目的でガサ入れし、同時に抑止力を働かせたと思われます」と話す。昨年2月といえば新型コロナウイルス禍が拡大し、五輪の中止や延期がささやかれていたころだ。

「五輪をやりたい人にとって抗議運動は邪魔な存在。あの時点で脅しておけば反五輪の流れを抑えられると判断したのでしょう。圧力や陰謀とは言い切れませんが、そういう忖度を公安はします」(前述の弁護士)

 その後、警察からは何度も任意の捜査を持ち掛けられたが、女性は拒否。直近では先月6日に呼び出され、警察に「捜査が終わっているのに呼び出すのは問題だ」と抗議したという。仲間からは「明らかに公安による反五輪運動への弾圧だ」「不法な捜査に真っ向から闘う」との声が上がっている。

 反五輪の流れは今回の抗議運動にとどまらない。すでにSNSには「中止」に関するハッシュタグが乱立。弁護士の宇都宮健児氏(74)による五輪中止の署名活動では30万件を超える賛同者が集まっている。自国開催となる五輪の聖地で「中止」の声が飛び交うとは、招致の時点で誰が想像しただろう。75日後、果たしてこの場所で開会式は行われているのか。