【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】インドネシア最大のリゾート地・バリ島に、古くから伝わる奇祭がある。「キス祭り」「集団キス」「聖なるキス」と地元で呼ばれる、いわば“集団お見合いイベント”だ。

 毎年3月恒例で、正式には「オメッド・オメダン(バリ語で「引き合う」の意)」と言う。地元の宗教バリ・ヒンドゥーの新年「ニュピ」を祝う行事のひとつ。文字通り男女を引き合わせる場として、中心都市デンパサールのセセタン村に伝わってきた。100年ほど続いているとも、17世紀からの伝統ともいわれる。

 参加者は17歳から30歳までの未婚の村出身者で、条件に合う者は強制参加。男女それぞれが1組ずつ担ぎ上げられ、騎馬戦さながらにぶつかり合う。そして男女は抱きしめ合い、熱烈なキスを交わすのだ。押すな押すなの大観衆はその瞬間、2人にバケツやホースの水をぶっかける。こうした“お見合い”が延々と何十組も続く。

 お互いタイプかどうかという問題もあり、キスをしてくる男性から女性が顔を背けて拒んだり、抱きついてきた男性の勢いで騎馬ごと崩れるペアも。ただ、伝統という名のもとに若者が公衆の面前でイチャつける祭りとあって、こと男性陣の盛り上がりはハンパではない。毎年、国内外から数千人の観客が集まり、メディアやSNSもこぞって取り上げる。

 ところが、さる15日に行われた今年の祭りは、新型コロナウイルス禍のあおりで非公開となってしまった。

 地元ニュースサイト「スアラ」によると、クラスターの発生を警戒し観客は入れず、一部の村民だけで限定的に行われたという。参加した男女はたった3組で、事前に入念な健康チェックを受けたのは言うまでもない。地元民にさえ、一般公開されなかった。

 中止にしなかった理由について、村の長老は「続けなければ村に災いが起きるかもしれない」と語っている。とはいえ参加者がわずかでは、祭りというより形式的な儀式だ。この伝統行事がキッカケでカップル成立となる村の男女も毎年たくさんいるだけに、若者の嘆きも聞かれるという。

 バリ島ではこれまで3万7077人がコロナに感染し、3万4531人が回復、死者は1033人(16日現在)。国外からの旅行者は受け入れていないため、観光産業は壊滅状態だ。

 島民は社会活動が制限されていて、会社への出勤は社員の半数まで、レストランの客数も収容人数の50%。国内線でバリ島入りする旅客には、PCR検査などが義務付けられている。

 ☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「バンコクドリーム『Gダイアリー』編集部青春記」(イースト・プレス)。