元文春エース記者でノンフィクションライターの甚野博則氏が原作を担当する社会派サスペンスコミック「介護とハイエナ」(新潮社バンチコミックス)が10月8日に刊行された。悪徳業者、8050問題、社会保障費の増大などの問題を抱える日本の介護は危機的な状況にある。親の介護経験をきっかけに介護現場を取材してきた甚野氏が、このほどインタビューに応じ、本作に込めた思いを語った。元文春記者が暴く老人大国・日本の介護の闇とは――。

 甚野氏は親の介護経験をきっかけに「介護」をテーマにした数多くの書籍を出版。記者として多忙な日々を送る中、母が階段から落ち、入院したと連絡を父から受ける。久々に帰省すると見慣れたはずの実家の景色が変わっていた。

 父が母を介護する老々介護状態でトイレには手すりや衝立棒が設置されていた。「それがサブスクで契約されていた。父に聞いたら『使ってない』と。ホームセンターで買えば3000円ぐらいで買えるようなもの。サブスク契約だと下手したら何万もお金払うことになる。他にも調べたら、おかしなことばっかり」と疑問を抱いた。

 文春記者時代は殺人事件、経済事件を取材し、スクープを飛ばしてきた。これまでは第三者として報じてきたが、介護においては自身が当事者となった。介護の取材を進めると「掘れば掘るほど詐欺師っぽい人がいたり、悪い人が制度を巧みに利用してお金を稼いでいる。取材しているうちに事件取材に似ているものがあった」とハイエナの存在に気付いた。

 介護現場を取材してきた甚野氏が、よく受ける質問が「良い施設と悪い施設」の見分け方だ。甚野氏は「本の中にも出てくるんですけど、匂いですよね」と答えた。

「糞尿の匂いというのは本当にある。ヤバい施設は大体感じますよ。情報提供者のケアマネさんから『取材がてらに施設を一緒に見てください。今から行く施設も匂うんで』と言われて行くと必ずヤバい施設は匂うんです」

 タイトルにもあるハイエナはカネに群がる悪徳業者をイメージさせる。しかし、関係者への取材を進めていく中で、立場によって見える景色が違うことに気付く。

社会派サスペンスコミック「介護とハイエナ」
社会派サスペンスコミック「介護とハイエナ」

「今回コミックにして何かを伝えたいと思っているけど、そこにはお金が介在する。そう考えると僕もある種ハイエナなわけで。もっと言えば家族だって利害関係者になることがあって、広い意味ではハイエナと言えるかもしれない。そうした介護を舞台にした人間模様みたいなものが面白いと思うようになった」

 親が高齢になってくると、介護についての漠然とした不安が現実問題として押し寄せてくる。「僕ぐらいの年齢になると周りの家族構成も似ていて、親がそろそろ介護ってなる。何が正解なのか、親にとっての幸せは何か。そういうジレンマを誰もが持っていると思います」と話し、答えは誰にも分からない。

 介護の闇に切り込んだのは正義感からか。「正義感は多少ぐらい。親の介護に関わった当事者でもあるし、あとは自分が老いたらどうなるんだろうという不安もある。だから興味ですよね」と話した。

 人生の最期とは何かを問うことで、闇の向こうに光を見いだせるかもしれない。

 ☆じんの・ひろのり 1973年生まれ。大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から週刊文春記者に。「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。22年からフリーランスのノンフィクションライターとして、週刊誌や月刊誌を中心に社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。近著に「実録ルポ介護の裏」(文藝春秋)、「ルポ超高級老人ホーム」(ダイヤモンド社)、「衝撃ルポ 介護大崩壊 お金があっても安心できない!」(宝島)などがある。