【闘魂三銃士、nWo…激闘の舞台裏 蝶野正洋自伝 黒の真実(8)】1984年9月には武藤(敬司)さんがデビューすると道場に通知があった。俺は長州力さんらが抜けたからデビューできるとか、そういう考えはなかった。笹崎(伸司)さん、橋本(真也)選手、武藤さんと順番にデビューしていくのを見て「俺のデビューも近いな」とは思っていた。少しずつレスリングを覚えてきているし、橋本選手たちと明確な差があったわけでもなかったから。
84年10月5日、迎えた新シリーズの開幕戦は埼玉・越谷大会。後から聞いた話だと長州さんらの離脱でメインカードが全部崩れていた。カードの下の方も空いていて武藤さんのデビュー戦の相手もいなかったが、気にせず雑用に追われていた。「デビュー戦は大丈夫か?」って感じでいたら開始30分前の午後6時ごろ、柴田(勝久)さんが担当レフェリーで選手のコンディションの確認をするためカード表を見ると「あれ? 武藤の対戦相手決まってねえな。誰なんだ?」と言い出した。
そうこうしていると試合開始が近づく。俺が控室に行ったら「おい、お前、靴持ってきてんのか」と先輩に言われ「え? はい」と答えた。まさか…と思ったけど「お前、対戦相手やれ」と告げられたんだ。俺は大慌てで、控室の裏の方でシューズを履いたよ。
お客さんもまだまばらな状態だったが、ボディーチェックをされているうちに緊張してきて。四方から背中やパンツの食い込みまで見られているという感覚だ。武藤さんにも後で聞いたら同じように緊張していて練習仲間だけど、もう目を見られなくて下を向いてしまったんだ。だから記憶はセルリアンブルーのマットしかない(笑い)。
ゴングが鳴っても自分の技はないので教わった首投げ、ボディースラム、スパーリングでやる関節技っていうようなレベルの試合。3、4分したところで逆エビ固めを決められた。俺はあまり派手にギブアップしたくないから、小さい声で「参った」と言ったんだ。そうしたら柴田さんが、俺の顔の横に来て「まだまだ」って言う(笑い)。「スパーリングじゃないんだから」と思ったけど、2人とも下を向いてゴロゴロとやっていたらまた同じ技を決められた。その時も目立たないように「参った」したけれど、柴田さんが「まだまだ」って…。「これ何なんだよ」と思いながら、最後はやっとギブアップを取ってくれた。
要はプロだから、お客さんに伝わるように戦わないといけない。俺らはスパーリングのような感じで小さく戦って、ましてやギブアップもお客さんに伝わらない。全部がプロとしてできていなかった。ギブアップを2回しても取ってくれなかったことで、柴田さんはそういうことを教えてくれたんだろうな。













