2020年7月に九州南部を襲った豪雨で、熊本県人吉市の私の故郷が、村ごと流され、今廃村の危機にある。村は球磨川沿いにあり、深いところで9メートル近くまで水に浸かったが、幸い死者は一人も出なかった。洪水の常襲地域なので、村人の避難が早かったのだ。
それから7か月後、熊本県から被災地の住民に説明会が開かれ、村が遊水地になるという案が示された。すでに家の再建に取りかかっていた人もいる中での、突然の発表だった。しかも遊水地にするには、ダムを作るのと同じく20年かかるというのだ。これから頻発するであろう「想定外」の洪水に、果たして対応できるのだろうか。
村は今、東日本大震災の津波被害と全く同じ風景に変貌してしまった。しかし、緑豊かだった頃の姿が、私の映画に残されている。今も映画の中で、水害前の村の風景に出会うことができる。
2000年にこの村で撮影した「ボクの、おじさん」という作品だ。私の子どもの頃の記憶を基にシナリオ化したオリジナル作品で、筒井道隆さん、細山田隆人さんのダブル主演だった。他に、つみきみほさん、中嶋朋子さん、宇崎竜童さん、鈴木ヒロミツさんらが参加してくれた。私にとって想い出深い映画だ。
グレかかった思春期の少年が、親ではなく歳の近い、いくらか破天荒なおじさんとの関わりを通して、大人への階段を一歩上っていくという物語だ。中学生くらいの年齢で経験する、大人への通過儀礼のようなもので、映画では、夏休みの終わりに少年が一人で流れの速い球磨川を泳いで渡り切るシーンが、クライマックスになっている。
実際の私の体験が、基になっている。自分を育んだ川や森や、生き物たちの命の鼓動の記憶は、今もなお身体に張り付いた感触として、鮮やかに残っている。
年齢を重ねるほどに、そのような少年時代の愛しき風景や体験に、今の自分が支えられているのが分かる。いつか還るべき場所、ということなのか。
村の話に戻ろう。やがて立ち退きに伴う補償金が提示され、たった60戸の村は賛成反対に分断され、村人同士が対立していくことになるだろう。いつもどこかで、よく聞く話だ。
☆やまがみ・てつじろう 1954年、熊本県生まれ。86年「シグロ」を設立、代表就任。以来80本以上の劇映画、ドキュメンタリー映画を製作・配給。「絵の中のぼくの村」(96年)でベルリン国際映画祭銀熊賞受賞をはじめ、国内外の映画賞を多数受賞。主な作品に石原さとみ映画デビュー作「わたしのグランパ」(2003年)、「老人と海」「ハッシュ!」「松ヶ根乱射事件」「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」「沖縄 うりずんの雨」「だれかの木琴」「明日をへぐる」など。最新作「親密な他人」が公開中。












