【直撃!エモPeople】多数のヒットドラマを手掛ける脚本家の三谷幸喜氏、宮藤官九郎氏、AKB48など多くの国民的アイドルグループを育て上げた名プロデューサー秋元康氏…。現在のテレビを支える重鎮の多くが放送作家出身という事実をご存じだろうか。テレビ文化について多数の著作を持つ社会学者・太田省一氏が5月に「放送作家ほぼ全史 誰が日本のテレビを創ったのか」(星海社刊)を出版。好評を呼んでいる。日本独特の存在である放送作家はどのようにテレビ文化を支えてきたのか。黎明期から現在に至るまでを深く分析してもらった。

――元祖は戦後にラジオで活躍した三木鶏郎さんとのことです

 太田氏 三木さんは番組構成と台本も手掛けつつ、パフォーマンスもする現在の放送作家の元祖です。三木さんから全てが始まった。NHKラジオ「日曜娯楽版」は鋭い風刺がメインで国民的人気番組に。戦後、国民が食糧にすら困る状況下で風刺的なコントと洗練された音楽で娯楽を提供しました。

 ――1953年にテレビ放送が始まり、その系譜を引く人たちが活躍

 太田氏 60年代は永六輔さん、青島幸男さん、大橋巨泉さんが3大巨頭。開始当初はバラエティー番組も手探りの状態。そのなかでNHKで61年に永さんが作家の「夢であいましょう」が始まる。永さん作詞、中村八大さん作曲の音楽はカッコよく今でも古くないし、シャレたコントが注目された。「上を向いて歩こう」(坂本九)、「こんにちは赤ちゃん」(梓みちよ)といったスタンダードナンバーも生まれ、流行の発信元になりました。

 ――同時に「シャボン玉ホリデー」という名番組が誕生します

 太田氏 同じ時期に日本テレビで「シャボン玉」が始まり、ハナ肇とクレージーキャッツがコントを演じた。植木等さんの「お呼びでない」、谷啓さんの「ガチョーン!」というギャグが誕生する。「夢で――」は洗練されたバラエティーで「シャボン玉」はナンセンスを前面に出した。作家をやりつつ、自分でも出演するようになったのが青島さん。実に画期的でした。

 ――大橋さんの「11PM」も衝撃的だった

 太田氏 ジャズ評論家から放送作家になり65年に日本テレビで深夜生ワイドショー「11PM」に出演もした。テレビに競馬や麻雀などの遊びを持ち込んだ功績はすごい。放送作家がキーマンになった時代であり、その番組作りは現在にも継承されていますね。

 ――70年代に入ると歌謡界が一変する

 太田氏 放送作家から作詞家の大御所になったのが阿久悠さん。世間が何を求めているかという企画力がすごかった。71年には尾崎紀世彦さんの「また逢う日まで」が大ヒットしましたが、1億人が求める「時代の飢餓感」を常に考えていましたね。「スター誕生!」(日本テレビ系)も放送作家的発想。親近感や素人っぽさを持つ歌手が求められると考えた。オーディションだと、緊張感や合否のドキドキ感がテレビで伝わる。「アイドルの時代」の生みの親です。

 ――時代は前後するが系譜を継承したのが…

 太田氏 80年代の秋元康さん。阿久さんをお手本にしつつ独自の方法論を作り上げた。「スター誕生!」のアイドルは基本はソロ。それを学校のクラスにして、自分の好きなタイプの子を応援してもらおうという発想。グループアイドルの時代を迎えるわけです。原点は83年「オールナイトフジ」の素人の女子大生たち。それが「夕やけニャンニャン」のおニャン子クラブへ発展する。常識を逆手に取り、大人数のグループを作ろうという「逆張り」の発想でした。それが現在のAKB48や乃木坂46などの国民的アイドルを生んだ。「オールナイト――」から約40年も経過してもいまだに時代の中心というのはすごいと思います。

 ――80年代の漫才ブームでまた状況は変わる

 太田氏 最大のスターがビートたけしさん。81年に「オールナイト・ニッポン」を始めるに当たって、高田文夫さんが相方的存在になり、放送作家でありながら「コンビ芸」という新しい方法論を確立させました。

 ――高田さんが確立した「相方」的放送作家はその後に増えます

 太田氏 ダウンタウンと高須光聖さん、SMAPと鈴木おさむさんという関係ですね。「相方」的関係は、現在までの放送作家の基準になっていると思います。

 ――90年代から2000年代に新たな流れが訪れる

 太田氏 放送作家から脚本家になる方が増えた。三谷さんは「古畑任三郎」という名作を生んだ。君塚良一さんは「踊る大捜査線」で「刑事も公務員である」という視点で常識を覆した。皆、放送作家的発想で必ず笑いの小ネタを入れる。宮藤官九郎さんが最たる例。どんなシリアスな物語にもギャグやコミカルなネタを必ず入れる。「あまちゃん」も「いだてん」もそうですね。最近の三谷さんは「鎌倉殿の13人」など、コミカルな部分とシリアスな部分のバランスが絶妙で円熟期に入っていますね。

 ――テレビのあり方も転換期を迎える今、今後の放送作家はどう変化していくのでしょう

 太田氏 高度経済成長には「一億総中流」とい安心感を確かめる「鏡」でもあった。現代は格差も生まれ、ユーチューブやサブスクなどの登場によりユーザーがメディアを選ぶ時代になった。それでもテレビは「TVer」のコンテンツも充実していますし、歴史的なノウハウは他のメディアに比べればまだ優位だと思う。視聴者が横一線から選択する時代、いかに面白いコンテンツを作り続けるか。より徹底した企画力が必要になってくると思います。

 ☆おおた・しょういち 社会学者。1960年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本、お笑い、アイドルなど、メディアと社会文化の関係をテーマに執筆活動を展開。主な著作に「紅白歌合戦と日本人」(筑摩書房)、「SMAPと平成ニッポン」(光文社新書)、「攻めてるテレ東、愛されるテレ東」(東京大学出版会)、「すべてはタモリ、たけし、さんまから始まった」(ちくま新書)、「21世紀 テレ東番組ベスト100」(星海社新書)などがある。