新型コロナウイルスパニックの裏で、こちらも非常事態…。2011年3月11日に起きた東日本大震災によって引き起こされた、福島第1原発の事故から9年が経過した。原発事故の処理は順調に進んでいるのか? 長年、福島原発問題を取材するライターで、ラジオDJでもあるジョー横溝氏(51)が今年も現地取材を敢行、直近に迫る福島原発の「2022年汚染水問題」を鋭く指摘した。「2020年は“復興五輪の年”と位置付けられているが、実は問題はまだまだ山積みだ」と警鐘を鳴らす――。 

 ジョー氏は今年1月17日に福島第1原発を現地取材した。

「1年前は東京電力の許可が下りずに取材ができなかったので、2年ぶりの取材となりました」

 現地入りして、感じたのは徐々にながらも着実に進んでいる作業現場の環境改善だ。

「敷地は東京ドーム75個分ともいわれる広さなんですが、通常の作業服で歩ける場所が96%相当で、以前よりも増えています。マスクのみ着用というイメージでしょうか。そういう意味での作業環境自体は改善していると思います」

 とはいえ…。

「事故を起こした燃料棒が溶けた状態(メルトダウン)になっている1号機、2号機、3号機。この燃料棒を取り出すのが廃炉作業です。その周辺の作業環境に関しては、2年前とあまり変わっていません。原子炉建屋のギリギリまでは近づけるようになりましたが、そこから先は線量がグッと上がる。(建屋から)100メートルのところに2~3分いると(ガイガーカウンターの)アラームが鳴る感じでした」

 今は手を付けなければならない1、2、3号機周辺の“原子力ゴミ”を比較的安全が確保できる場所に寄せ集めた段階にすぎないという。

「問題はデブリ(溶けた燃料棒)をどう取り出すのか。どういう状態であるのかも完全には判明しておらず、昨年、2号機内部にロボットが入り、少し触ったという程度です」と問題点を挙げる。 それだけではない。

「そもそもデブリの位置が分かったところで、取り出せるのかという問題もあります」

 どういうことか。

「内部はとても線量が高いので、ロボット自体がすぐに壊れる。無線使用の壊れないロボットでは放射線が無線を遮ってしまう。それで有線にするしかないんですが、原発内部はとても複雑で、入るに入っても戻れない。おそらく、いまはロボットの“死骸”だらけになっていると思います。特に3号機は安定冷却のためにガンガン注水していて、水深6メートルぐらいまで水がたまっていると推定される。それゆえデブリの取り出しが、かなり難しい」

 東京電力もその困難さを認めている。デブリの取り出し完了時期は未定。廃炉完了は41~51年ごろとしているというが「それもどこまで根拠があるか分からない。しかもこれまで『廃炉=原発を更地』と思っていたんですが、東電は『これまで更地について明言したことはない』と。じゃあ、取り出したデブリの処理はどうするんでしょうか? それも何も決まっていません」とジョー氏は厳しく追及する。

 そして、廃炉に向けた最大のハードルが「汚染水問題」だ。

 前述したように原発事故処理のためには大量の水が使われている。デブリを冷やした水が放射性物質を含んだ汚染水となるほか、原子炉建屋に流れ込んだ地下水や雨水も汚染水と化す。こうした水が地下水として海に流れることを防がなくてはいけないため、氷土壁を作り、対策がなされている。

 そして汚染水に関しては多核種除去設備(ALPS)で、トリチウム以外の放射性物質を取り除き、残った汚染水、いわゆる「トリチウム汚染水」をタンクにためている。

 しかし、敷地内でこのタンクを置く場所がまもなくリミットを迎え、汚染水に対応できなくなる懸念があるのだ。

「現在、137万トンの水をためられるそうですが、それがすでに118万トン(1月取材時)までたまっている。もうすぐいっぱいになるんです。1日に発生する汚染水は170トンですから、2022年中には、満杯になってしまう」と抜き差しならぬ事態に陥ることが目に見えている。

 タンクの増設はできるが「構内の敷地は有限で、タンクを建てる土地がかなり少なくなっているんです」という事情がある。

 そうなるとトリチウム汚染水はどうなるのか?

「最終的には海洋放出か水蒸気放出しなくてはいけなくなる。現在の汚染水の濃度は、国の決めた基準を下回っているとのことですが、そうはいっても、低濃度の汚染水を長くとり続けた場合、人体への影響がどうなるのか、分かっていない。仮に科学的に安全だとしても、地元の水産業に与える影響は果てしなく大きい。消費者心理を考えてみてくださいよ」

 しかも、水をためておけるタンクは1基相当、約「1億円」とべらぼうに高い。

「現在、構内には約1000基のタンクがあって、これだけで約1000億円ですよ。廃炉までにいったいいくらかかる? これはノーバジェット(予算無制限)で行われている。国民の税金が投入されているわけです。別に金をケチれというわけでない。安全第一がすべてですから。でも、税金が投入されているからこそ、国民はこの行く末に注目しなくてはいけない」

 問題はまだある。

「そもそもトリチウム汚染水の中身に大きな疑義がある」と指摘する。それは…。(続く)

☆じょー・よこみぞ=1968年生まれ。東京都出身。早稲田大学卒。2017年まで雑誌「ローリング・ストーン」日本版シニアライターを務める。現在は、音楽を始め、社会問題に関する取材・執筆を行い、新聞、雑誌、ウェブでの連載も多数。ラジオDJとしてはInterFM897でレギュラー番組を務める。ロックバンド「DIR EN GREY」の薫がMCを務めるユーチューブラジオ番組「The Freedom of Expression」出演中。