【闘魂三銃士、nWo…激闘の舞台裏 蝶野正洋自伝 黒の真実(10)】1985年4月から(アントニオ)猪木さんの付け人を務めるようになった。ライガーがメインでサブに俺が入る形だ。このストレスがすごかった(笑い)。

 猪木さんとディック・マードックが戦った時だ。付け人の仕事の一つに靴磨きがある。汚れを取って靴ひもを取り換えて磨きをかける。試合前日にライガーから言われて俺は初めてやることになった。仕上げた靴をライガーに見せると「大事な試合だからもっと靴墨をつけた方がいい」と言われた。もう一回磨いて見せて「もう少しだな」。これが3回か4回は続き「やりすぎじゃないかな」と思いながらやってるうちにいつの間にか靴がガチガチに固まった。

 そして翌日の試合になった。猪木さんのガウンを受け取って控室に戻ったら、中継テレビを取り囲んで星野(勘太郎)さんや坂口(征二)さんが「どうしたんだ、あれ」と。モニターをのぞいたらマードックが真っ黒になっていたんだ。

猪木(右)と対戦したマードックの顔は黒くなっていった(85年4月)
猪木(右)と対戦したマードックの顔は黒くなっていった(85年4月)

 気が付いたらライガーがいなくなってる。ヤバいと思って慌ててリングサイドまで行ったら、ロックアップした猪木さんまで黒くなっちゃっていた。他のセコンドとレフェリーに「このバカ」って顔で見られたのがもう最悪だった。怒られることはなかったけど、道場に帰ったらライガーは大笑いをしていた。いたずらだったんだよ。

 坂口さんの付け人だった橋本選手もよくミスして怒られてたけど、俺みたいな〝悪い〟アドバイスを受けていたんじゃないのかな。悪ふざけで後輩がミスをする。それを上の先輩が笑うみたいな構図はよくあった。直属の先輩に言われたことは歯向かえないから、実行するしかないんだ。

 同じようなことは武藤さんにもあった。デビュー前後の時のこと。誰に言われたのかはわからないが「アンドレ・ザ・ジャイアントに『フ○○ク・ユー』ってあいさつしろ」と命令された。俺らは言葉の意味なんてわからないから、武藤さんはエプロンに上がって「フ○〇ク・ユー」と口にすると、すぐにバシーンと吹っ飛ばされていた。

 こんなこともあったな。(アブドーラ・ザ)ブッチャーが来日(85年1月)した時だ。セコンドに就いた橋本選手は「場外に出たら蹴飛ばしてでも中に入れろ」とたきつけられた。橋本選手は真に受けて場外でブッチャーの背中を蹴りまくったから、レフェリー伝いで本人からクレームが入って、しばらく試合を干される事態になったんだ。

 橋本選手のことを「ブッチャー」って呼ぶようになったのは、この〝事件〟がきっかけだったかも。「あいさつだ」とか「観客を守るため」と言われたら、俺たち若手は「わかりました」と言うしかない。そしてだまされるんだ。