ボートレース住之江のSG「第38回グランプリ」は24日、いよいよファイナルを迎える。勝ち上がった6選手による「1億円1000万円バトル」の行方を占うのはボートレースファン歴45年、競馬界で「天才」の名をほしいままにしてきた元ジョッキー・田原成貴氏(64)だ。

 有馬記念3勝を誇る〝グランプリ男〟は、暮れの大舞台を支配する独特な雰囲気をつづり、第38代グランプリ王者として石野貴之(大阪)を指名した。

【田原成貴氏が熱く語る】日本列島に寒波がやって来た。雪国の方々は頭が痛いだろうが、ボートレース好きのオレとしては絶妙なタイミングでの寒波到来だと思っている。

 以前、オレは有馬記念を「青空の下でやるダービーとは違う哀愁がある」と表現したことがあるが、ボートレースグランプリにも似たような情緒を感じている。暮れの押し迫った世の中、澄んだ師走の空気、日がすっかり落ちた住之江、身の凍るような寒さ。そう、この寒波がグランプリの緊張感をより演出するのだ。息が真っ白く見えるほど冷え切った水面で、見ている我々の体が燃えるような熱い戦い。それがグランプリの醍醐味である。

 同じ住之江なのに、グランプリだけは全く違う雰囲気だ。発売締め切り5分前に流れる音楽ですら、いつも聞き慣れているはずなのに不思議と神聖なる調べに聞こえる。水面にも魔物がひそんでいるのか、一筋縄にはいかない。今大会も波乱の連続だ。転覆や妨害もあり、全コーナーで激しい攻防が繰り広げられている。ここまで混戦になるとは思いもしなかった。戦うレーサー同様に、舟券を考える立場としても相当、頭をひねらないと勝利には近づけない。

 そんな頂上決戦を制するのは誰か? オレの本命はズバリ、石野貴之選手(大阪)だ。住之江全体が異様な空気に包まれているのに、彼だけはいつも通り。どんな大舞台でも驚くほど落ち着いていて、安定した走りを続けている。まさに百戦錬磨の貫録だ。ジョッキーで例えるならC・ルメールだろう。勝ちたい闘志は人一倍あるが、それを表に出さずに淡々と仕事をするのだ。派手さはないが、強くて美しい。そして最強レーサーとしてのオーラもまとっている。舟券を託す身としては、これほど頼りになる男はいない。

 トライアル2ndの初戦では目を疑うのようなシーンがあった。2号艇だった石野選手は道中で2着をキープしていたが、後ろから桐生順平選手が猛追。石野選手らしく、自分の旋回をすれば大丈夫と安心して見ていたが、最終2Mで珍しく消極的なターンをして桐生選手に逆転を許した。慎重に回ろうとしてレバーを落とし過ぎたのか。とにかく、こんな石野選手を見るのは初めてだった。やはりグランプリの舞台は怖い…、とつくづく感じた。

 だが、彼は凡人ではなかった。トライアル2ndの2走目はインからきっちり逃げ切り、迎えた最終戦は4カドから目の覚めるような素晴らしいまくりを見せた。そこにはいつもの強い彼がいた。初戦のミスを猛省し、自分に喝を入れたのか。まさに攻めの姿勢だった。
 
 ファイナルの当日も水面は冷えるだろう。だが、石野選手の熱いターンに観客は酔いしれるはずだ。第38代のグランプリ覇者として、寒空の下で黄金のヘルメットをかぶる石野選手がオレには見える。