アニメ監督・伊藤智彦氏(37)が今年も年末の東スポWebに登場。来年1月7日から放送されるテレビアニメ「僕だけがいない街」、映画「劇場版 ソードアート・オンライン」を控え多忙な中、2015年のアニメ業界を振り返ってもらった。
――この企画も今年で3回目。2015年のアニメ業界はどうだったでしょう
伊藤:まず、「バケモノの子」大ヒットおめでとうございます。…という枕から。2015年を象徴するのは何本か作品が落ちたことですね。「血界戦線」は通常放送に最終回が間に合わず(※4か月後に最終話だけ放送)、「ゴッドイーター」は何度も特別編を差し込み、「アイドルマスター シンデレラガールズ」は(連続2クールのはずが)なぜか分割2クールの放送となりました。
――「血界戦線」は映像のクオリティーが評判でした。テレビアニメの絵の質はここ数年上がっていますが、制作側としてはあの質をテレビアニメ全体に求められるとつらくはありませんか
伊藤:そうですね。劇場版アニメならいいですけど、テレビで絵のクオリティーを突き詰めていった先には不幸な未来しか待っていないと思います。そこにアニメ業界にはそろそろ気付いてほしいんですけど。絵を精緻にやるのではなく、面白い話を作ることに注力した方がいい。
――年々、冒険的な企画が通りにくくなっていると聞いています
伊藤:やりにくいですね。その中で「おそ松さん」は例外的な作品だと思います。6つ子のキャストにイケてる男性声優を揃え、女性層をターゲットとして狙うというのはあったでしょうけど、そこに藤田陽一監督の暴走が加わり、カオスなものが生まれて、誰も想像していなかった結果になっていると思います。
――「ノラガミ ARAGOTO」では戦闘シーンのBGMの一部にイスラム教のアザーン(礼拝の呼びかけ)が使用されていたことがイスラム教信者に問題視され、製作委員会が謝罪する騒動もありました
伊藤:聞いたところによると、BGMを作るためにフリーの音源CDを使ったらしいんですが、そこにアザーンが入っていたようです。フリーの音源CDにはアザーンであるという但し書きはなく、制作者も意識せず使ってしまった。実は以前、ゲーム「ゼルダの伝説 時のオカリナ」でもアザーンをBGMに使用して修正したことがあったんですけど、その反省が生かされなかった…というようにも聞いています。また10数年後には繰り返してしまうことがあるので、こういうことがあったから事故が起きたと明文化しなければならないですね。
――声優は相変わらず2015年も人気でした。志望者も増えているそうですが、声優は育っていますか
伊藤:育っていると思いますが、彼らに強い個性があるのかというと、それは別です。例えば20代付近でがたいのいいキャラの声をやれる男性が少ない。どうしても、なよっとした感じのイケメン声が多いんです。アニメ「アルスラーン戦記」のダリューンをやった細谷(佳正)さんくらいじゃないでしょうか。それより下の世代にはいない感じがします。
――昨年も男性の演じるキャラは相変わらずイケメン役が多くて、役に幅がないと言及されていました
伊藤:それでいうと「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」はデブがいるし、ヤンキーな感じで、こびてない姿勢はいいなと思います。
――2015年は動画配信サービス「ネットフリックス」も上陸。「amazonプライム・ビデオ」もスタートし、動画配信が本格化しています。海外では「ハウス・オブ・カード」など莫大な資金をかけたドラマは成功しています。動画配信会社はコンテンツを求めており、今後こうした資金が日本のアニメ業界にも入ってくることが予想されます
伊藤:入ってくるかもしれませんが、潤沢な資金とアニメ業界の食い合わせがあまりよくないという説があるんですよ。お金があったからといってちゃんと作品が出来上がるかというと、そうでもない。潤沢な資金があることに慣れているアニメ業界の方は、結局お金を食いつぶす傾向にある。昔のスクウェア・エニックスが映画「ファイナル・ファンタジー」で失敗しましたけど、あれはハワイにスタジオを設立して、スタッフが遊んじゃったからだめなんです。アニメはどっかに隔離して作らないと無理ですね。八ヶ岳の山荘に演出と作画チームを閉じ込めて、作品作りが終わるまで帰さない。その代わり夜は毎日宴会をする。そんな感じが今までの日本のアニメのやり方で、システマチックなやり方と食い合わせが悪いのではないかと思ってます。ひょっとすると、京アニさんとかPAワークスさんは別なのかもしれませんが。ネットフリックスが手を組んでいるのはポリゴン・ピクチュアズ(3DCG制作会社)さんですけども、それは彼らの作る3Dはシステマチックに作らなければならないからですよ。
――配信会社はアメリカですが、中国から日本のアニメに資金が流れているとの話もあります
伊藤:最近多いと聞きますね。知り合いのプロデューサーが制作発表で監督を引き連れて中国に行くと言っていました。いろんな現場に中国からやってくれないかと企画も来ているそうです。チャイニーズマネーでどうこうしようとしていた人の一番の懸念はお金が本当に出てくるかどうか。ただ中国向けの作品を国内で見られるのかなとは思っちゃいますね。
――以前、「2016年ごろからアニメの本数は減る」という話をされていました
伊藤:アニメ業界の白書で「2016年問題」と書かれていましたが、来年アニメは本数的はピークになるのではと言われています。アニメの本数についてはポジションによっていろいろと考え方があると思うんです。アニメーターにとっては作品の話が増えるとその分、仕事を受けられるし、片や制作会社の制作からすると、使いたいアニメーターの予定が埋まっていて自分たちの仕事を請けてくれない。監督からすると、良かった演出の若い子たちはみんな監督になってしまっていて、誰にも仕事を振れない。監督になる年齢がどんどん下がってきていて、若手にはチャンスはチャンスなんですけど、下にしっかりした人がいない構造が生み出されている。
――最後に。2016年はアニメ「僕だけがいない街」に映画「劇場版ソードアートオンライン」が控えていますが、その後の構想は
伊藤:その2つ以外にも個人的にはいろいろ動いています。でもアイドルものはやらないと思います。アニメ業界はアイドルに興味のある人がいっぱいいますので、そちらに任せます。どちらかというとアイドルにはまったファンの末路に興味がありますね。












