テレビ時代劇「鬼平犯科帳」(フジテレビ系)でも知られる歌舞伎俳優の中村吉右衛門さんが11月28日、心不全のため東京都内の病院で死去していたことがわかった。77歳。吉右衛門さんは今年3月、東京・歌舞伎座の舞台に出演後、体調不良を訴え、病院に救急搬送された。舞台復帰を目指し、療養していたが、残念ながら帰らぬ人となった。

「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵役は、1989年からシリーズ約150作を演じ、お茶の間に親しまれた。

「テレビで人気となった『鬼平犯科帳』では、無頼な〝鬼平〟と呼ばれた男を演じたから、吉右衛門さんは私生活も豪快なイメージがあるけど、実はお酒はほとんど飲めなかった。若いころから甘いものが大好きだったそうで、〝元祖スイーツ男子〟だったんです」(テレビ局関係者)

 特にこよなく愛したのが和菓子だった。

「ネスカフェ・ゴールドブレンドの〝違いが分かる男〟というCMをやってたから、コーヒーに合う洋菓子も好きだったが、和菓子にも目がなかった。特にあんこが大好きで、もなかが大のお気に入りだった。歌舞伎の公演中は、もなかの差し入れがあれば上機嫌だった、なんて話もある」(前同)

 ただ、公演中にもなかを食したのは、「ほかの理由もあったのでは?」と、梨園関係者は指摘する。

「吉右衛門さんは公演中、役になりきるとご飯をほとんど食べられなくなるくらい集中していた。それで手軽に食べられる、もなかなどの和菓子を口にすることが多くなったのでは」

 それでもハードな舞台の連続だけに、公演は過酷だ。

「1か月の公演で、体重は少なくとも5キロは減ったそうです。そのため、公演がない日は必ずスポーツジムに行って、体調を維持するように務めていた。仕事に対しては本当にストイックでしたね」(前同)

 吉右衛門さんは、八代目松本幸四郎(初代松本白鸚)の次男で、兄が現在の二代目白鸚。女優の松たか子はめいにあたる。だが4歳の時に母方の祖父である初代吉右衛門の養子となった。

「祖父からは溺愛されたそうだが、4歳で実の親と兄と離れて暮らすようになり、さびしい思いもしたが、それを乗り越えて人間国宝にまで上り詰めた」(前同)

 兄の白鸚は「別れは何時の刻も悲しいものです。今、とても悲しいです。たった一人の弟ですから。幼い頃、波野の家に養子となり、祖父の芸を一生かけて成し遂げました。病院での別れの顔は、安らかでとてもいい顔でした。播磨屋の祖父そっくりでした」と悼んだ。