女子サッカー界に衝撃が走った。今秋開幕する日本女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」に参加するINAC神戸は22日、2020年から指揮を執っていたゲルト・エンゲルス監督(63)の退任と、10年11月から12年まで監督を務めていた星川敬氏(44)が新たに指揮を執ることを発表した。

 新リーグのスタートまでまだ半年以上あるとはいえ、2月末という時期に監督交代が決まったことに、元なでしこジャパンの選手の一人は「ちょっと不自然」と驚きを隠さなかった。クラブ側のアナウンスは、あくまで「契約終了」。だが昨季はリーグ戦2位、皇后杯も8強止まりの無冠に終わったことを見る限り、事実上の解任といってもいい。

 もともとINAC神戸には不穏な空気が流れていた。1998年に消滅した横浜フリューゲルスの最後の監督で、京都や浦和の監督なども歴任したエンゲルス氏だが、女子の指導は未知数で、シーズン中盤には他クラブの選手のところにまで「INACは監督と選手がうまくいっていない」という話が届いていた。選手の起用法や戦術面で限界が見えていたのは確かだった。

 にもかかわらず、年が明けても監督交代の様子がなく、選手たちは「このまま新リーグを戦うのか」と疑心暗鬼になっていた。そんなタイミングでなでしこジャパンのエースFW岩渕真奈(27)がイングランド女子スーパーリーグのアストンビラに移籍。4年連続得点王の実績もあるFW田中美南(26)も一度はチームに残る考えだったが、今月上旬にドイツ1部レーバークーゼンに移籍した。

 チームの守備の要だったDF鮫島彩(33)が新規参入の大宮に移ったのを筆頭に、10選手が退団。新リーグ開幕までプレーする場がないために海外に移籍するのは理解できるが、エンゲルス監督の去就が今回の大量退団につながったということも否めない。

 それだけに星川氏の就任発表がもう少し早かったら、という関係者やファンは多い。星川氏は澤穂希や大野忍、川澄奈穂美といった当時の日本のトップ選手を率いて11、12年と2年連続2冠を達成。女子サッカーでは革新的な戦術と抜群の求心力で、次期なでしこジャパン監督の呼び声も高かった実力派だ。

 13年以降、イングランド、ポーランド、スロベニア、ラトビアで指導していたが、INAC神戸とはコンタクトをとっていたという。それだけにクラブ側も〝再建の切り札〟として登板させた感も強い。ただ、タイミングはやや遅きに失した感もある。再び黄金期を築くため、星川氏の手腕に期待がかかるが、待ち受けるのはいばらの道だ。