22日に肺炎のため都内の病院で死去した女優の李麗仙さん(本名大鶴初子=享年79)は、当局からブラックリストで警戒された過去があった。

 李さんは東京生まれの在日韓国人3世(1975年に日本国籍を取得)。高校卒業後に舞台芸術学院に入学すると、同級生らが夢中になっていた60年安保闘争には参加せず、ひたすらダンスの稽古に励んだ。

 同学院在学中には、演出家の唐十郎氏(81)と出会い、同氏が設立した「状況劇場」に星山初子の芸名で、看板女優として活躍。唐氏とは67年に結婚した。

 ところが、73年に李さんの人生を大きく変える出来事が起きる。そのころ韓国では民主化運動に対して政府が圧力をかけていた。そんな中、韓国の民主活動家で後に同国大統領になる金大中氏が、都内のホテルで拉致されたのだ。実は李さんは当時、韓国で反政府運動などをしていた詩人・金芝河氏らと交流があった。同年に李さんがバングラデシュに行くためビザを申請すると、自身がブラックリスト入りしていることを知る。

「さらに知人が逮捕されるなど、取り巻く状況を李さんは心配していました。家族の安全を考え、息子の大鶴義丹が小学校に入学するタイミングで日本に帰化することを決断したのです」(芸能プロ関係者)。結局、唐氏とは88年に離婚するが、その後も親交は続いたという。

 李さんの他界を受けて大鶴は25日、次のようにコメントを発表した。「私の父である唐十郎とともに劇団『状況劇場』を興し、60年代70年代のアングラ演劇シーンの真っただ中を疾走しました。父、唐十郎とは離婚しましたが、最後まで盟友としての親交はありました。最後の舞台は、2017年の『六条御息所』でした。唯一無二のアングラ女優人生を全うして、一片の悔いなき人生だったと思います」

 政治に翻弄されながらも、李さんは女優として日本の芸能史に確かな足跡を残した。