1971年創業のホストクラブ「愛本店」が入るビルが2020年6月に取り壊されることが分かった。昨年10月に亡くなった“ホストの帝王”愛田武元社長(享年78=現名誉会長)が作り上げた日本を代表するホストクラブの移転先だが、退去まですでに1年を切りながらまだ決まっていない。現存する最古のホストクラブとして“歌舞伎町の顔”だった店の行く末は…。

 1階入り口から階段を下りて広がる200坪、50席のギラギラした空間。まばゆい照明に生バンドとダンスホール。「愛本店」は愛田元社長が手作りした“昭和遺産”と呼ぶべきホストクラブだ。東京都新宿区歌舞伎町の象徴としてこの場所で37年間続いた店がなくなるという。

 愛田元社長のもとで長く働いた元ホストの野口左近専務(55)は12日、「昨年暮れにビル側から説明があり、2020年6月にビルが取り壊されることが決まりました。愛本店は移転します」と認めた。

 愛田元社長は1969年、日本最大のホストクラブ(ダンスホール)だった東京都中央区八重洲の「ナイト東京」でナンバーワンを取った。数人の黒服を従えて独立し、71年に愛田観光を創業。新宿2丁目、歌舞伎町、新宿東口にホストクラブを出した後で、この歌舞伎町2丁目のヒデビル(現・叙々苑第二新宿ビル)地下1階に店を構えた。82年12月4日のことだった。

 今となっては歌舞伎町に200軒もあるといわれるホストクラブだが、30年前には愛本店の他、「夜の帝王」「シルクロード」など7店舗しかなかった。

 当時画期的だったのは、ホストがショバ代として一日500円を店に納めていたシステムを撤廃。逆に、一日2000円からの最低保証給を約束した。「指名が付かなくても1か月で6万円が入る。当時の高卒初任給と同じくらい。今も業界で当たり前になっている仕組みを作り出した」(野口専務)

 昨年暮れにビル取り壊しのアナウンスがテナントに伝えられた。来年6月の取り壊しから、新ビルが建つのがさらに2年半後。店前の道路が「愛本通り」と呼ばれるほどなじみが深い。同じ場所で営業をしたいのはやまやまだが、2年半後では長すぎる。そこで移転となるわけだが、場所探しは難航中だ。

「200坪の広さの店はなかなかない。ダンスホールと愛本店の店の雰囲気はそのまま残す考えです。複数の移転先が候補に挙がるが、まだ結論が出ていません」(野口専務)

 愛本店で17年間勤めた現代表のホスト・壱さん(36)は「歌舞伎町の歴史であり、この空間が大好きで30年以上通っているお客さまもいる。社長が残してくれた宝物だからずっと残さないといけない」と話す。

 残さないといけないもの…愛田元社長が生前、取り組んでいたボランティアもその一つだ。「愛田観光」の500人のホストが参加する毎年2回の熱海旅行には、いつも幼い子供たちの姿があった。「児童養護施設の子供たちでした。社長の死後、施設を支援していたことが分かったんです。誰も知りませんでした」(壱代表)

 壱さんたちも初めて訪れ、職員や子供たちにあいさつした。

「園長さんからお話を聞いて、グランドピアノやクリスマスケーキを贈っていたことを知りました。僕らも遺志を引き継いで、できることを続けていく。まずはホストと子供たちが仲良くなって、ホストクラブで時間を楽しんでもらいたい」

 その思いは早速実現する。今月15日に、愛本店で、クロマグロの解体イベント「マグロハウス×ホストクラブ愛本店」が開催される。一般客参加の前に子供たちと職員を招待して、オレンジジュースタワーや盆踊りなど“忘れられない夏休み”のひとときを提供するのだ。

 普段は女性同伴でしか入店できない男性も単独で入れる(入場料3000円前売り)とあって、豪華な店内をその目で見られるチャンスだ。