“歌舞伎町の顔”「愛本店ビル」取り壊し決定

2019年08月13日 17時00分

愛本店の内装。愛田元社長が一つひとつ手作りしたクリスタルや照明が店中を覆い尽くす

 1971年創業のホストクラブ「愛本店」が入るビルが2020年6月に取り壊されることが分かった。昨年10月に亡くなった“ホストの帝王”愛田武元社長(享年78=現名誉会長)が作り上げた日本を代表するホストクラブの移転先だが、退去まですでに1年を切りながらまだ決まっていない。現存する最古のホストクラブとして“歌舞伎町の顔”だった店の行く末は…。

 1階入り口から階段を下りて広がる200坪、50席のギラギラした空間。まばゆい照明に生バンドとダンスホール。「愛本店」は愛田元社長が手作りした“昭和遺産”と呼ぶべきホストクラブだ。東京都新宿区歌舞伎町の象徴としてこの場所で37年間続いた店がなくなるという。

 愛田元社長のもとで長く働いた元ホストの野口左近専務(55)は12日、「昨年暮れにビル側から説明があり、2020年6月にビルが取り壊されることが決まりました。愛本店は移転します」と認めた。

 愛田元社長は1969年、日本最大のホストクラブ(ダンスホール)だった東京都中央区八重洲の「ナイト東京」でナンバーワンを取った。数人の黒服を従えて独立し、71年に愛田観光を創業。新宿2丁目、歌舞伎町、新宿東口にホストクラブを出した後で、この歌舞伎町2丁目のヒデビル(現・叙々苑第二新宿ビル)地下1階に店を構えた。82年12月4日のことだった。

 今となっては歌舞伎町に200軒もあるといわれるホストクラブだが、30年前には愛本店の他、「夜の帝王」「シルクロード」など7店舗しかなかった。

 当時画期的だったのは、ホストがショバ代として一日500円を店に納めていたシステムを撤廃。逆に、一日2000円からの最低保証給を約束した。「指名が付かなくても1か月で6万円が入る。当時の高卒初任給と同じくらい。今も業界で当たり前になっている仕組みを作り出した」(野口専務)

 昨年暮れにビル取り壊しのアナウンスがテナントに伝えられた。来年6月の取り壊しから、新ビルが建つのがさらに2年半後。店前の道路が「愛本通り」と呼ばれるほどなじみが深い。同じ場所で営業をしたいのはやまやまだが、2年半後では長すぎる。そこで移転となるわけだが、場所探しは難航中だ。

「200坪の広さの店はなかなかない。ダンスホールと愛本店の店の雰囲気はそのまま残す考えです。複数の移転先が候補に挙がるが、まだ結論が出ていません」(野口専務)

 愛本店で17年間勤めた現代表のホスト・壱さん(36)は「歌舞伎町の歴史であり、この空間が大好きで30年以上通っているお客さまもいる。社長が残してくれた宝物だからずっと残さないといけない」と話す。

 残さないといけないもの…愛田元社長が生前、取り組んでいたボランティアもその一つだ。「愛田観光」の500人のホストが参加する毎年2回の熱海旅行には、いつも幼い子供たちの姿があった。「児童養護施設の子供たちでした。社長の死後、施設を支援していたことが分かったんです。誰も知りませんでした」(壱代表)

 壱さんたちも初めて訪れ、職員や子供たちにあいさつした。

「園長さんからお話を聞いて、グランドピアノやクリスマスケーキを贈っていたことを知りました。僕らも遺志を引き継いで、できることを続けていく。まずはホストと子供たちが仲良くなって、ホストクラブで時間を楽しんでもらいたい」

 その思いは早速実現する。今月15日に、愛本店で、クロマグロの解体イベント「マグロハウス×ホストクラブ愛本店」が開催される。一般客参加の前に子供たちと職員を招待して、オレンジジュースタワーや盆踊りなど“忘れられない夏休み”のひとときを提供するのだ。

 普段は女性同伴でしか入店できない男性も単独で入れる(入場料3000円前売り)とあって、豪華な店内をその目で見られるチャンスだ。