未確認生物に関する情報の中には、最近の書籍であまり紹介されなくなった話があったりする。今回紹介するのは1990年代ごろまでの書籍にたびたび掲載されたもので、子供たちの心に大きな衝撃を与えたのではないかと思われるエピソードだ。

 1962年3月24日、米国・フロリダ州ペンサコーラ湾で10代の青年たち5人が沖に沈んだ難破船に向かってダイビングをしていた。当初、この日は晴れていたが、夜になって霧が出てきてしまい、彼らが乗ってきていたボートでは岸に戻ることができなくなってしまった。

 それほど岸からは離れていないはずだったが、右も左も分からない。そんな濃い霧の中に何か巨大な生物が潜んでいるのが感じられた。生物が動くような水音がしたその瞬間、突然、暴風が生じて船がひっくり返ってしまい、彼らは海に投げ出されてしまった。慌てて彼らが岸の方へ泳いでいこうとすると、巨大な生物が姿を現し、彼らに襲いかかってきたのである。彼らは無我夢中で泳いだが、1人、また1人と襲われ、最終的には5人のうち4人が無残にも食い殺されてしまったのだという。

 生き残った青年の通報を受けて沿岸警備隊が周辺を捜索したところ、溺死した仲間1人の死体が回収されたが、残る仲間たちの死体は見つからなかった。

 目撃証言によれば、この生物は「首の長さが約3・6メートル、茶色がかった緑色でなめらかな皮膚をしていた。目は電球のように輝いており、明るい緑で楕円形の瞳孔をしていた。顔はウミガメに似ていたが、口からは鋭く長い牙が生えていた」。海の上に首を出していた様子はさながら「電柱のよう」で、暗い水の中だったが背びれのように見えるものがあったそうだ。

 未確認生物の攻撃を受けるという事例は少ないが、ないわけではない。だが、今回のように次々と襲われて食い殺されてしまうというケースは非常に珍しいものであるといえる。

 この話は1965年に発行された「フェイト・マガジン」に生き残った人物エドワード・ブライアン・マクレアリー氏によるスケッチとともに掲載され、衝撃をもって受け止められた。

 ちなみに日本の各種書籍では日時や名前が他の事件と混同して紹介されてしまい、混乱を生む原因となってもいるようだ。なお、今回の記事は前出の「フェイト・マガジン」の記事の描写を参考にしている。

 この話は子供向けのUMA図鑑やオカルト系の書籍にも掲載されていたため、当時の子供たちのトラウマになったであろうことは想像に難くない。だが、本当に怪物が人間を襲って食い殺すようなことがあり得るのだろうか。

 この事件に関する検証は現地でも行われており、怪物の姿は蒸気船かマストを立てた船などを濃霧のために見間違えたもので、怪物ではなく大型のサメに襲われてしまったのではないかとする説が出てきた。しかし、生物に関する描写があまりに詳細であることなどから、一概に誤認したとも言えず、玉虫色の結果となっている。

 なお、被害に遭ったマクレアリー氏は今も存命であるが、現在は事件に関する証言をしていない。